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フォレストシンガーズ

フォレストシンガーズ・短歌俳句超ショートストーリィ2019/11

2019/11

 

短歌俳句・超ショートストーリィ

 

 

 泥棒猫って季語なのか? 季語のない俳句もあるにはあるらしいし、川柳ってやつもあるが、これはどう判断すればいいのか。

 

「恥入ってひらたくなるやどろぼ猫」

 

 本物の猫ならこうだから、これは人間の泥棒猫だな。

 

 お魚くわえたドラ猫追っかけて
 裸足で駆けてく……

 

 であって、猫は泥棒しても恥じ入ったりしないのだ。
 さしずめ、よその男の彼女に手を出した男とか、よその女の彼氏に手を出した男とか。

 

「はっきりカタをつけてよ
 どっちかしっかり選べよ

 

「バイバイバイバイ、やってられないわ
 あのひとの涙の深さに負けたわ」

 

「あんな女に未練はないが
 なぜか涙があふれてならぬ」

 

 とかね。
 ややこしいのはやっぱり人間だな。

 

 嗚呼、猫になりたい、と溜息が白く煙る、霜月の帰り道。
 三沢幸生、歳があければ三十路だ。嗚呼。

 

END

 

 

 

 

 

 

フォレストシンガーズ・短歌俳句超ショートストーリィ2019/10

フォレストシンガーズ

2019/10

 タイの気候に近づいてきていると言われる日本の夏。
 今年も猛暑、酷暑が続いていた。

 子どものころをすごした金沢の街に、猛暑日なんてあったただろうか。
 北陸も夏は暑いが、隆也の子ども時代には喘ぐほどの暑さは経験していないような。

 夏休みの楽しさのほうが勝っていて、子どもには暑さなんて感じにくかっただけなのかもしれない。
 故郷は甘いノスタルジーに彩られているものなのだから、子どもなりにたくさんあった不快感なんて、忘れてしまったのかもしれない。

「おや、こんなところに……コスモスって晩夏の花だよな。ちょっとだけ季節はずれ? でもない?」

 大人は快感よりも不快感のほうばっかり感じて生きてるものなんだなぁ、などと感じつつ、仕事で訪れた故郷の街を歩いていた隆也は、たおやかな花を見つけて足を止めた。

「秋風にこすもすの立つ悲しけれ危き中のよろこびに似て」与謝野晶子

 コスモスの花みたいな女性と出会わないかな、なんて、そんな雑念も起きる、今年も独身のまま迎えた秋。

END


 


フォレストシンガーズ・短歌俳句超ショートストーリィ2019/9

フォレストシンガーズ

2019/9

 あれマツムシが鳴いている
 チンチロチンチロチンチロリン

 こんなシーンを描いていると、耳元にこの歌が聴こえてくる気がする。夏の終わり、秋のはじめ、人は虫の音で季節を知ったりもする。

 百年以上も昔だったら、自然は豊富だっただろう。
 京都伏見といえば田舎ではなかったはずだが、今ごろの季節には虫たちが大合唱をしていたはず。静かな夜に坂本龍馬が伏見の船宿で、恋仲のおりょうさんの膝枕で虫の音を聴き、おりょうさんがそっと口ずさむなんてどうかな?

「あれ、この歌、幕末にあった?」
「ないだろ。小学唱歌って明治時代に作られたんじゃないのか」
「そうだよね、残念」

 今夜はヒデさんが泊まりにきている。彼は歌には詳しいので、質問してみた。

「幕末のころ、こんなシチュエーションで口にする歌かぁ。都都逸とか?」
「都都逸ってどんなの?」
「三千世界の烏を殺し……は高杉晋作だよな。三津葉だったらどんな都都逸を知ってる?」
「んんと……知らない」

 いまだガラケーを使っているヒデさんは、誰かにメールを打っていた。ややあって、届いたのは乾さんからの返信。この季節の歌といえば……だそうだ。
 
「夜をかさねはたおる虫の急ぐかな草のたもとの露や冴ゆらむ」定家
 
 乾さんらしい返事だけど、坂本龍馬に定家の歌は似合わない。もっと俗っぽいのないかしら? あれは、これは? とヒデさんと言い合っているのは楽しいから、答えなんかなくてもいいんだけどね。

END

 

フォレストシンガーズ・短歌俳句超ショートストーリィ2019/8

フォレストシンガーズ

超ショートストーリィ


 なんの気なしに如雨露を手に取ろうとしたら、息子の広大の黄色い声が降ってきた。

「駄目っ!! ダメダメっ!!」
「え? どうして? ああ、そっか。うんうん、駄目だな」

 マンションのベランダで、妻がささやかな花を育てている。いくつか並んだプランターの植物には、いつもは妻の恭子が三歳児の広大と一緒に水やりをしていた。

 今日は恭子が次男の壮介だけを連れて出かけているので、休日の繁之は広大とお留守番だ。たまには水やりでもしようかな、と如雨露を取ろうとして広大に叱られた。どうして駄目なのかよ確認してみたら、そういうことか。繁之は如雨露を持ち上げるのをやめて、部屋の中から小さな手桶を持ってきた。

「この朝顔、広大のなのか?」
「そうだよ。管理人さんのおばあちゃんがくれたの」
「そっか。大切にしてるんだな」
「綺麗でしょ?」
「うん、すごく綺麗だね」

 花を愛する情感豊かな子どもに育ってくれたのは、きみのおかげだよ、恭子。繁之は妻に感謝しつつ、自身の子どものころを思い出していた。

「小学生になったら夏休みに、朝顔を育てて朝顔日記ってのを書くんだよ。パパが小学生のころにはそんな宿題があったけど、今どきでもあるのかな」
「ぼく、あさがおにっき書く」
「うん、あとで一緒に書こうか」
「うんっ!!」

 ここで一句、と乾さんならやるんだろうけど、俺には無理だな。
 だけど、なにやら浮かんできそうな。んんんん、んん。

「朝顔につるべ取られてもらい水」加賀千代女

 いや、これはモロ他人の作じゃないか。俺にこんなにうまい句が詠めるわけがない。
 ベランダに置いてある如雨露に朝顔の蔓がからみつき、使えなくなっていた。これぞまさしく現代の、朝顔につるべ取られて……だ。やっぱ俳人って情景を短く切り取るのが上手だよな。見習わなくちゃ、と感じるのもおこがましいほどに。

END

フォレストシンガーズ・短歌俳句超ショートストーリィ2019/7

フォレストシンガーズ 超ショートストーリィ

 
 その歌の解釈を教えて下さい、と頼まれることはよくある。
 フォレストシンガーズの乾隆也は古典文学を大学で専攻した、特に短歌や俳句が得意分野だと、フォレストシンガーズが有名になるにつれ、そちらも有名になっていったからだ。

 グループとして、であるので、個々のメンバーはさほどに有名ではない。ファンではない人に言わせれば、フォレストシンガーズに乾隆也っていたっけ? 程度であるのだが。

「この季節にふさわしい、ぴったりの短歌を教えてください。乾さんの自作だと嬉しいな」
「いや、そんな即興では詠めませんよ」

 こちらの頼みもよくされる。
 
 梅雨明け間近の七月のある日、雑誌のインタビューを受けていた隆也は、そう言われて考え込んだ。七月の短歌……あまりにも有名ではないものといえば。

「日かげにもしるかりけめや少女子が天の羽袖にかけし心は」
「えーと、出典は?」
「源氏物語です。五節の舞姫」
「はあ……意味は? 恋の歌ですか」
「解釈はあなた自身のお心のままに」
「えーっと……も、しるかりけめや? えとえと……」
「感覚で解釈して下さいね。ひとつひとつの語句の意味は置いておいてもいいんですよ」

 定番の質問には定番の答えで。

END

フォレストシンガーズ・短歌俳句超ショートストーリィ2019/6

FS俳句短歌超ショートストーリィ

 

「風あざみってほんとにあるんだと思っていたよ」

 

 ふいに誰かの言った台詞を思い出した。風あざみ? 「少年時代」という歌に出てくるあれか? ほんとにはない花なのか?

 

「ああ、シゲだな、風あざみってどんな花ですか、って訊いたのは。ミエちゃんと俺が架空の花だって言ったら、本橋も感心していたよ」

 

 大学時代の先輩と後輩で結成した五人グループ、フォレストシンガーズの中では乾隆也のみが花の名前に詳しい。マネージャーの美江子は女性なのだから当然、花の名前をよく知っている。女性は花の名前を熟知していて、男性はそもそも興味がないというのが、小笠原英彦の無意識的見解だった。

 

 なのだから、花の名前に詳しい隆也は女性的な男、と、英彦の見解ではそうなる。実際には隆也の祖母と母が華道家であるかららしいのだが、華道家にはいかにも女性的な職業で、乾さんも跡を継いだらよかったのに、短歌や俳句に詳しいってのも華道家としてはふさわしいんじゃないか? と英彦は思っていた。

 

「さしずめこれは、雨あざみだな」
「雨あざみ?」

 

 アマチュアながらも時には歌える仕事をもらえることがある。今日は地方のイベントにフォレストシンガーズが出演させてもらい、自由時間に英彦は隆也と散歩していた。山道に見つけたあれがあざみの花だと、隆也が暗い赤紫の花を指さす。

 

「口をもて霧吹くよりもこまかなる雨に薊の花はぬれけり」長塚 節

 

 たしかに細かな雨が降っていて、非常に非常にタイムリーな短歌を隆也が口にする。
 しかし、うーん、やっぱり……乾さんって男じゃないみたいだ、と、英彦はどうしても思ってしまう。

 

 男同士で歩いているこのシチュエーションで、雨あざみだの短歌だのって、俺だったらぜーったいの絶対に頭にも浮かばない。だからあんたは男だとは思えんのやきに……先輩相手には面と向かって言えないフレーズを、英彦は雨にまぎれて呟いてみた。

 

HIDE/21/END

 

 

 

 

 

 

 

 

フォレストシンガーズ・短歌俳句超ショートストーリィ2019/5

フォレストシンガーズ 超ショートストーリィ

 

かたわらでどこかで聴いたことのある歌を口ずさんでいる男は、俳句や短歌にはすこぶる強い。おかげでフォレストシンガーズ内では、和歌の話題に花が咲いたり句会をやったりと、章には大迷惑だ。対外的にもなにかといえば、では、ここで一句、などと振られる。

 

「それは乾さんの得意技。俺は苦手ですよ」
「そうなんですか」

 

 先日もラジオで、フォレストシンガーズは全員が俳句や短歌が好きなのかと思った、と女性DJに言われてしまった。

 

「初夏の短歌、楽しみにしてたんですよ」
「短歌は一句とは言わない。一首です」
「やっばり木村さんも得意じゃないですか」
「この程度で……」

 

 得意では決してないが、影響は受けてるな、と木村章は思うのであった、

 

「夏も近づく八十八夜、 野にも山にも若葉が茂る」

 

 童謡? 唱歌? どっちでもいいけど、要するにガキの歌だな。章はちらっと考え、かたわらで歌っている乾隆也に訊ねた。

 

「その歌詞って、北原白秋とか……」
「とか?」
「えーと……滝廉太郎とか……えーと……」
「滝廉太郎は作曲家だろ。他には?」

 

 有名な作詞家の名前を述べよ、とでも言われているらしい。

 

「フレディ・マーキュリーとかエルトン・ジョンとかね」
「章らしい答えだな。で?」
「いや、だから、その歌の、夏も近づく八十八夜って、誰が作詞したのかなって気になって……」

 

 そういうことか、とわかっていたくせに納得してから、隆也は応じた。
 作者不詳、なのだそうだ。ああ、そういうのもアリなんだな、と章も納得した。

 

END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フォレストシンガーズ・短歌俳句超ショートストーリィ2019/4

フォレストシンガーズ

超ショートストーリィ


 万葉集といえば奈良が舞台なのか? 奈良時代に編纂されたはずなのだから、舞台も奈良なのが当たり前か。中学、高校時代の国語の授業で「万葉集」を習ったはずだが、ほとんど記憶にも残っていない。万葉集? 本橋真次郎にとっては、俺には関係ねえや、だったのだが。

「へええ、万葉集専攻なのか。好きなのか?」
「好きだよ」
「……おまえ、変態だろ」
「変態はないだろうが」

 大学生になって合唱部に入り、友達になった乾隆也は金沢出身で、万葉集が好きだと言う。そんな嗜好の同い年の男がこの世に存在するとは、真次郎には驚きだった。

 ひとかけらも興味のなかった万葉集を話題にするなんて、自分がそんな話をしているなんて、真次郎にとってはそれもびっくりだ。乾の影響なのはまちがいない話題を展開していると、すこしずつは高校生までに習った知識が思い出されてきた。

「そのころの江戸って焼野原だろ?」
「なんで焼野原?」
「いや、江戸は火事が多かったって聞くから」
「江戸時代の江戸には火事が頻発していたらしいけど、奈良時代や平安時代には鄙びた田舎なんだから、焼野原ってのとはちがうんじゃないかな。で、本橋くん、なにが言いたい?」

 やはり人は、自らの故郷が気になるものなのだ。真次郎の故郷は東京だから、こんな質問がしたくなった。

「じゃあ、万葉集では関東が舞台の短歌ってないのか?」
「なくはないよ。歌碑だってあるよ」
「可否?」
「うん、歌碑」

 しばし目を白黒させてから、ああ、歌碑か、と真次郎はうなずいた。

「多摩川のあたりは万葉集にもよく詠まれてるみたいだな。都内にも歌碑はあるよ。一度行ってみるか?」
「おまえとか?」
「うん、俺もおまえとは行きたくないよ」

 だったら言うな、と真次郎はむくれ、隆也は笑う。きみには万葉集よりはこっちのほうがいいんじゃないか? 江戸の俳句だっていっぱいあるよ、と隆也が教えてくれた。

「花の雲鐘は上野か浅草か」松尾芭蕉

 ここは東京、時は四月。この歌は状況にもぴったりだ。俺には万葉集はむずかしいから、松尾芭蕉のほうがわかりやすくていいな。知り合ったばかりだっての、早くも乾に気持ちを読まれてしまった。

SHIN/18/END

 

フォレストシンガーズ・短歌俳句超ショートストーリィ2019/3

FS俳句短歌超ショートストーリィ

2019/2

 菜の花列車に乗って適当な駅で降りて、猫に導かれて歩いていた不思議な経験。房総半島の内陸部には、黄色い菜の花がたくさんたくさん咲いていた。

 どこかで見たことあるなぁ、誰だっけ?
 猫に導かれていった民家の女の子は、幸生をそんな目で見ていた。猫は相手を、自分の知り合いか否かでだけ判断するのだろうが、人間の場合、こっちが知らなくてもむこうは知っているってことも間々ある。

 フォレストシンガーズの三沢幸生です、なんて名乗らずに、幸生は歌を歌った。

「菜の花畑に入日薄れ
 見渡す山の端 匂い淡し」

 歌、うまいね、今度は女の子はそんな目で幸生を見た。
 そりゃそうですよ、俺はプロの歌手だもの。そうとも言わずに女の子と猫とバイバイしてきて、ひとりで歩く帰り道。月がぽっかり、菜の花畑のむこうに顔を出した。

「歌手ってのはソングのほうであって、短歌のほうじゃないんだけどね……こういうときに一句か一首、すらすらっと詠めたらかっこいいんだけどな」

 ひとりごちて頭をひねる。頭をひねって句か歌かをひねってみたくて。
 ……お!!

「菜の花や月は東に日は西に」

 おおお、うまいっ!! 俺、天才!! 最高の俳句が詠めたじゃん。

「幸生、そいつは盗作だ。いや、盗作ではない、そのまんまだ」
「へ? そう?」
「与謝野蕪村だよ」
「与謝野晶子さんじゃなくて? 蕪村って男でしょ。女のひとのほうがいいのにな」
「ごまかすな。それはナシ」

 そっかぁ、頭の中に聞こえてきた声は乾さんのものなんだから、この話題に関しては乾さんの言うことにまちがいはないんだから、ナシだな、ナシナシ。

 では、もう一度……と苦吟してみたが、いくらひねってみても、月は東で太陽は西だ。あげくのはてには、西から上ったお陽さまが東へ沈む、なんて、どこかで聞いた歌詞になってしまうのだった。

END

 

 

 

 

 

 

 

フォレストシンガーズ・短歌俳句超ショートストーリィ2019/2

フォレストシンガーズ

超ショートストーリィ


 醜貌コンプレックスなんてものは、神代の昔からあったのだろう。平安時代には物語にもあらわれると教えてくれたのは、國友の先輩の乾隆也だった。

「末摘花って知ってるだろ」
「源氏物語ですよね」
「そうだよ」

 鼻の先が赤い。そのせいでついたあだ名のような名が「末摘花」。花と鼻をひっかけてあるらしい。

 古代女性の名前は、歴史に残っていない場合が多い。誰それの娘だとか、官位だけだとか、誰かの妻だとか姉だとか妹だとか、あるいは通り名だとか。家系図にすらも、「女」としか記されていなかったりする。

 そんな時代の女性、末摘花。彼女は物語の登場人物なのだが、國友としては感情移入してしまった。
 赤い花、紅花は國友の故郷である山形県の県花だから、もあったのかもしれない。

「くれなゐのひとはな衣うすくともひたすら朽たす名をし立てずば」末摘花

 稚拙な歌だって評判だけどね、と言いつつ、隆也の教えてくれた和歌が思い出される。

 背が低くて引っ込み思案で、無口だとか暗いだとか言われて、恋人どころか友達もほとんどできなかった僕。大学生になってようやく、度胸を振り絞って三つ年上の女性に告白し、恋人同士になれた。

 天にも昇る心地はあっけなく砕かれて、ほんの数ヶ月で捨てられてしまった。
 自分の顔のことはあまり考えてなかったけど、男としては背が低いってのは不細工以上のコンプレックスだよ。僕の背が低いからいやだって言うんだったら、最初から美江子さんは僕の告白を受け入れてくれなかっただろうけど。

 でもやっぱり、それだってあるのかな。
 つきあってみたら僕が小さすぎるのにうんざりして、告白を受け入れたことを後悔した。だから傷が浅いうちに僕を捨てた。それも美江子さんの優しさだと考えるしかないのか。

 ぐずぐずうだうだ、考えながら歩いていたら涙がこぼれてくる。
 二月の風が國友の頬に冷たく吹きつける。故郷に帰って紅花に頬を寄せて、癒してもらいたくなってきていた。


KUNI/19/END

 

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