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212「なんでそうなるの」

しりとり小説

212「なんでこうなるの」

 愚痴を綴ってブログにアップすればストレス解消になる。どうせ私のブログなんて読んでくれる人もいないし、友人知人には話してもいないのだし。そのつもりでブログをはじめた。日記帳に書くと夫に盗み読まれる恐れもあるが、もちろん夫にはブログをやっているなんて話していない。

 小学校時代から作文は得意だったので、文章を書くのは苦にならない。
 個人ブログなのだからアップしたければ毎日でもいいし、書く気にならなかったら放置すればいい。それも私には気楽でよかった。

 カウンターなどつけても無意味だから、アクセス数は知らない。ブログ開始から三ヶ月、コメントはひとつもつかない。それで当たり前だと思っているので、私は気持ちよく愚痴を書き散らしていた。

「息子が小学校に入学して三ヶ月。「ポチャリのブログ」も同じ三ヶ月。ブログは快調なんだけど、ママ友つきあいは不調かもしれない。

 幼稚園のときには私はパートをしていたから、仕事が終わって急いで息子を迎えにいき、買い物にいったり夜ご飯の支度をしたりで忙しくて、ママ友とは挨拶くらいしかしなかったんだよね。
 だから、同じ幼稚園から同じ小学校に入った顔見知りのママさんたちには、あんな人はママ友じゃないもんね、って思われてるのかもしれない。

 だったらそれでもいいんだけど、同じ幼稚園のママさんだけじゃないんだな。こそこそひそひそ、悪口言われてるみたいなんだ。好かれるようなこともしてないけど、嫌われるようなこともしてないつもりなのに。

 子どものころから友達は少なくて、人づきあいは得意なほうじゃなかったよ。だけど、嫌われるほどでもなかったのにな。どうするべきなのかな。こっちから仲良くしてもらうべき? すり寄っていくべき? 

 ママ友ができなかったら息子も友達ができないんだろうか。学校では遊んでる子もいるみたいだけど、放課後に一緒に帰ったりおうちに呼ばれたり、うちに遊びにきてくれたりってほどの友達はいないの。息子はひとり遊びも楽しいみたいだからいいんのかなぁ。悩むわ。

 それにしても、なんで私は陰口をきかれてるの?
 ほんとに嫌われてるの?」

 別段本気で悩んでいるのでもないが、ネタとしてそんな文章を書いてブログにアップした。すると、翌日、はじめてのコメントがついたのである。

「ポチャリさん、はじめまして。
 ママ友さんたちに嫌われたって? それは悩んでしまいますよね。
 私も子どもたちが幼稚園や小学校のころには、ママ友づきあいに悩んだものよ。

 嫌われる原因が自分ではわからないと言うんだったら、もしかして……と思ったの。
 ポチャリってハンドルームってことは、もしかして太ってない?
 太った女を嫌う女は多いみたいよ。
 もしも太ってるんだったら、ダイエットしたら?
 綺麗になったら意外と、ママさんたちにも好かれるかもしれないよ」

 はあ……私はそのコメントを見て苦笑いするしかない。

 本名でブログを書くのは芸能人や有名人だけだろう。一般人はハンドルネームというものを使う。私はなににしようか? パソコンの前で考えながら、そこに置いてあったスポーツドリンクを飲んだ。ああ、これにしよう、というわけで、ポカリをもじってポチャリ。なんの意味もないハンドルネームだ。

 しかし、ポチャリは「ぽっちゃり」を連想させる。まったく知らないこのコメントの人が、そんなふうに考えたとしても変ではない。さて、私は太っていない、と返事を書かなくちゃ。

 そのつもりだったのだが、そこにかかってきた一本の電話で、私は大忙しになってしまった。

「ご主人が会社で怪我をなさいまして……」
「え? あの……」
「いえ、脛を骨折なさっただけですので、骨折なさっただけ、という言い方は語弊がありますが、重症ではありませんので。でも、入院しなくてはならないのはまちがいありませんから、今から言うものを準備して病院までいらして下さいませんか」
「わかりました」

 夫の会社からの電話は、夫が事故に巻き込まれたというものだった。

 スーパーマーケットや弁当屋に卸すお総菜を作っている会社の、夫は現場主任である。食肉担当の夫は、鶏肉をカットする機械の事故で脛を骨折した。組み立て式の機械のボルトがゆるんでいたらしく、大きな部品が倒れてきたのに脚を挟まれたのだそうだ。

 幸いにも単純骨折だけですんだが、しばらくは入院。その準備やら手続きやらで大わらわで、私はブログどころではなくなってしまった。小学校一年生の息子と、ブログには書いていないが、幼稚園に入ったばかりの娘を抱えて、あちこちに連絡したり、夫が会社を休むための書類に記入したり、見舞客の対応に追われたり。

 ブログはスマホでだって操作できるが、精神的にそんな余裕はなかったから放置してしまった。
 というよりも、忘れ果てていたブログを、一週間後に夫が退院してきて、週明けから松葉杖を使ったら出勤もできるということで安心して、ようやく思い出した。

 パパが帰ってきた、と子どもたちも喜び、ささやかに退院祝いをして、夫も早く寝てしまった夜になって、私はパソコンに向かった。

「ええ? なに、これ?」

 おっとびっくり。私のブログのコメント欄には、ものすごくたくさんの書き込みがなされていたのだった。

「そりゃあそんなに太っていたら、嫌われもするよな。太った女って暑苦しいんだよ。そばに寄ってくんなって感じ。
 アタシの娘ちゃんの幼稚園のおかんにもいるわ。
 あの女のそばには寄りたくないぜ」

「太った人にはなにかと事情もあるんやから、それだけでそばに寄るなは言い過ぎとちゃうのん?
 けどなぁ、薬のせいやとか妊娠してるやとかって言い訳するのは見苦しいで。
 意志が強かったらダイエットはできるんや。ポチャリさんもがんばりや」

「あのね、方言で書き込みをするのってやめてもらえません?
 アタシの娘ちゃんとか書くのもやめてよ。
 あんたらは見苦しいんだよ」

「どうでもいいようなことばかり書いている人がたくさんいます。ブログ主はそういう書き込みは削除して下さい。
 私の情報は重要ですから、みなさん、注目!!
 
 痩せたい人はエステブルーラグーンへ。
 楽して美人になれる、近道はエステブルーラグーン!!
 ここは太字でよろしく!!」

「宣伝すんな、馬鹿野郎。
 俺はぽっちゃりさんが大好きさ。
 ポチャリさん、俺にメールちょうだいよ。
 ママ友なんかどうでもいいじゃん。
 俺がおまえを愛してやるぜ、ベイベイ」

「うげっ、キモっ!!
 ブログ主はなにやってんの? 一週間以上も放置かよ。
 あり得ない、出てきてお礼ぐらい言うのが筋じゃないの?
 そういう礼儀知らずだから嫌われるんだよ」

「ポチャリさんは一度も出てきてもいないのに、よくもこれだけ憶測で盛り上がれるものですね。
 暇人が多いなぁ」

 ざっと読んでいったコメントの中で、私の目はここで止まった。ハンドルネームは「アキレェ」。うんうん、アキレェさん、あなたには賛成だよ。

 ブログ大炎上ってこういうの? 話には聞くが、実体験としてははじめてだ。どうしてこうなったのかといえば、私の愚痴に反応したひとりの通りすがりの人物が、ポチャリってハンドルネームってことはぽっちゃりさん? と尋ねたこと。それでこれだけ盛り上がるのか。

 あのぉ、私、太ってないんですけど、みなさん、落ち着いて下さいね、今さらそんな返事を書くのも野暮かと思えてきた。
 炎上したブログ主のリアルがさらされることもあるらしいが、私はなにをしたわけでもない。誤解と揣摩臆測とで他人と他人が議論したりしているだけだ。その他人にしても見知らぬひとばかり。

 なんだか面白いから、もうすこし知らんぷりをして観察していようか。一抹の不安がなくもないのだが、それでいいよね? ほおっておいても大丈夫だよね? そのうちには自然鎮火するよね?

次は「の」です。

 


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