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ガラスの靴53「告白」

「ガラスの靴」

     53・告白


 同じマンションの別フロアで夫と息子との三人で暮らしている専業主夫友達、美知敏。通称はミチ。彼は男だから「主夫」なのだが、夫も男で、息子は夫と前妻の間に生まれた子どもだ。僕も同じく「主夫」ではあるが、妻は女性で、息子は妻の産んだ子供。僕のほうがややこしさは少ない。

 吉丸さんちでミチと、息子の来闇、僕と息子の胡弓の四人で遊んでいて、二歳のライアンと三歳の胡弓はお昼寝をしてしまった。ミチと僕は息子たちを見守りながらお喋りをしていたので、喋るのにも倦んできて半分は居眠りをしていた。

「はーい」
「お客さん?」
「お客の予定はないけどね」

 チャイムの音にミチが立っていき、美少年を伴って戻ってきた。

「来るんだったら先に電話でもして、約束してからにしろって言ってるのに、リルはこうして突然来るんだよ」
「暇だったんだったらいいじゃん。笙くん? こんにちは。僕、リル」
「リルっていうの? ハーフ?」

 色白で可愛い顔立ちで、ハーフに見えなくもないが日本人だそうだ。ミチの高校時代の後輩で、本名は理流稀。リルキと読む。ライアンなんてフツーじゃん、って感じの変わった名前だ。

「後輩って、ミチは部活とかやってたの?」
「うちの高校は部活は必須だったから、やってたよ。僕は二年で中退しちゃったから、リルとは一年しかつきあってないけどね」
「なんの部活?」
 
 アニソン研究会だそうだ。ミチはリルのためにコーラを取りにいき、リルが高校時代の話をしてくれた。
 高校の部活で知り合ったミチ先輩は、間もなく高校を退学してしまう。リルはミチが好きだったので、ミチのアルバイト先を突きとめて会いにいった。

「あ、僕はゲイじゃないからね。友達として好きなんだよ」
「うんうん。それで?」
「それで、僕もミチくんがバイトしてた店で働いたりもして、僕も高校は中退しちゃったんだよ。勉強なんか嫌いだから、お水の世界に入るほうがいいつもりだったんだけど、親がうるさくてさ。バイトだったらまだいいけど、バーなんかに就職したら駄目だって」

 高校中退のリルが一般の会社にもぐり込めたのは、父親のコネがあったかららしい。リルのお父さんは建築事務所を経営していて、取引先の会社に息子を押し込んだ。

「最初はパシリだったんだけど、経理の資格を取ったから、今はこれでも経理マンなんだよ」
「へええ、すげぇ。えらいんだね」
 
 二十歳にしてリルはまっとうなサラリーマンなわけだ。僕にはとうていそんな暮らしはできないけれど、ぱっと見とはちがうリルを尊敬してしまった。そこに戻ってきたミチが尋ねた。

「で、今日はなんか用事?」
「僕、告白されたんだ」
「女に?」
「そうだよ。僕はゲイじゃないんだから、恋は女とするんだよ」

「こいつ、オクテなんだよね。初恋なんじゃないの?」
「初恋ではないよ。今の会社に就職してから、ふたりぐらいはつきあったかな」
「僕に言わなかったじゃん」
「遊びだったからね」
「だったら、今度は本気?」
 
 力強くうなずいて、リルは話した。

 その時どきでリルにはマイブームランチがある。最近はドーナツなので、職場近くのドーナツショップへ毎日通い詰めていた。
 毎日毎日行っていると顔なじみの店員さんができる。そのうちのひとりの女性に、待ち伏せされて告白されたのだそうだ。

「私、三人ほど好きな男性がいるの。あなたに断られたら次を当たるから、好きか嫌いかはっきりして」
「ええ? そんないきなり……」
「私は気が短いのよ。はっきり決めて」
「考えさせてもらえない?」
「駄目っ!! 決めて」
「ううう……」

 悩む間も与えてもらえなかったので、リルは勢いでうなずいた。

「言っておくけど結婚前提よ。私は遊びの恋はしない主義なの。もう四十歳もすぎてるんだから、さっさと結婚してさっさと子どもを産みたいのよ。私とつきあったら一年以内に結婚するよ。いいね?」
「はい、結婚します」

 そこまで聞いて、ミチと僕は同時に疑問を口にした。四十すぎてる?

「そうだよ。稟子さんは四十二歳なんだ」
「すっげぇ美人?」
「えーっと、でも、ドーナツショップって……あ、オーナーだとか?」
「ううん。アルバイト。写真があるよ」

 大切そうに見せてくれたリンコさんの写真は……。普通のおばさんだった。

「リンコさん、言ってたよ」

 告白の前に、リンコさんは友達に相談したのだそうだ。二十歳の美少年と三十代の美青年と、四十代のかっこいい中年、お店に来るお客の中でお気に入りが三人いる。どの彼に告白すべき?
 複数の友達は異口同音に答えた。

「二十歳に告白なんかしたら犯罪よ。三十代もあんたには無理。身の程を知りなさい。四十代だったらまだしもだけど、かっこいいんでしょ? 無理だね」

 そう言われて意地になって、三人ともに告白することにした。手始めに当たって砕けるつもりだったリルが大当たりだったので、あとのふたりはやめにして友達に報告した。

「……嘘でしょ。だまされてるのよ」
「リンコ、目を覚ましなさい。その子、あんたをからかってるんだよ」
「そうじゃないんだったらリンコの妄想だよ」
「そうかもしれないね。医者に行こうか?」

 友人たちの言い草に、リンコさんも不安になってきたらしいと、リルはふふっと笑った。

「リル、ほんとにリンコさんの友達が言ってる通りなんじゃないの? おまえ、リンコさんをからかって、告白だの結婚だのにうなずいておいて、どこかでどすっと落とすつもりだろ」
「僕があなたにそんな気になるわけないだろ、とかって? 罪だよ、リル。そんなふうにするくらいだったら、最初からお断りしろよ」

 いいや、本気だよ、とリルは頭を振り、ミチと僕は言いつのった。

「ちょこっと遊びでつきあってみるだけだったら、まだわかるけどさ……」
「しかし、リルだったらこんなどこにでもいそうなおばさんとつきあわなくても、可愛い若い子が遊んでくれるだろ」
「二十歳のニートとかいうんだったらしようがないけど、一応はちゃんと働いてて、収入だっていいほうなんじゃないか。なにを好き好んでこんなおばさんと……」
「第一、告白されるまでは意識もしてなかったんじゃないのか?」

 だからこそ、運命を感じたんだ、とリルは言った。

「このおばさんと結婚するんだよ? できるの?」
「ってか、もう寝たの?」
「まだだよ。リンコさんは純情可憐な乙女なんだから、結婚式をすませて新婚旅行に行って、そのときに初夜ってのが夢なんだって。僕もそのほうがいいな」
「新婚旅行や結婚式の話もしてるの?」

 もちろん、とリルはこともなげにうなずき、ミチが質問した。

「親には許しをもらったの?」
「僕は成人してるんだから、親の承諾なんかなくても結婚できるよ」
「けど……あとあと……」
「ミチくんだって親には適当にごまかしてるくせに」

 それを言われるとぐうの音も出ないってやつなのだろう。ミチはうなだれた。
 このふたりの親は田舎で暮らしている。ミチが言うにはろくな高校もない田舎だから、中学を卒業して上京したのだそうだ。リルも似た境遇なのだから、親とは同居していない。内緒で結婚するってこともできるわけだ。

「リル、血迷ってないか?」
「冷静に考え直したほうがいいよ」
「ミチくんも笙くんも、頭の固いおばさんたちと同じなんだね。失望したよ」
「ったって世間の常識が……」

 言いかけたミチを、僕は肘でつついた。その台詞が似合わない最たる人物はキミだよ、ミチ。

 このふたりと比較したら、僕なんかは平凡で常識的だ。僕は男として女性と結婚し、普通に子持ちになった。主夫程度のなにが変なんだろ。親にとってはミチやリルみたいのよりも、僕のほうが一億倍も親孝行息子なはずだ。

つづく


 

 

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