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フォレストシンガーズ・短歌俳句超ショートストーリィ2019/4

フォレストシンガーズ

超ショートストーリィ


 万葉集といえば奈良が舞台なのか? 奈良時代に編纂されたはずなのだから、舞台も奈良なのが当たり前か。中学、高校時代の国語の授業で「万葉集」を習ったはずだが、ほとんど記憶にも残っていない。万葉集? 本橋真次郎にとっては、俺には関係ねえや、だったのだが。

「へええ、万葉集専攻なのか。好きなのか?」
「好きだよ」
「……おまえ、変態だろ」
「変態はないだろうが」

 大学生になって合唱部に入り、友達になった乾隆也は金沢出身で、万葉集が好きだと言う。そんな嗜好の同い年の男がこの世に存在するとは、真次郎には驚きだった。

 ひとかけらも興味のなかった万葉集を話題にするなんて、自分がそんな話をしているなんて、真次郎にとってはそれもびっくりだ。乾の影響なのはまちがいない話題を展開していると、すこしずつは高校生までに習った知識が思い出されてきた。

「そのころの江戸って焼野原だろ?」
「なんで焼野原?」
「いや、江戸は火事が多かったって聞くから」
「江戸時代の江戸には火事が頻発していたらしいけど、奈良時代や平安時代には鄙びた田舎なんだから、焼野原ってのとはちがうんじゃないかな。で、本橋くん、なにが言いたい?」

 やはり人は、自らの故郷が気になるものなのだ。真次郎の故郷は東京だから、こんな質問がしたくなった。

「じゃあ、万葉集では関東が舞台の短歌ってないのか?」
「なくはないよ。歌碑だってあるよ」
「可否?」
「うん、歌碑」

 しばし目を白黒させてから、ああ、歌碑か、と真次郎はうなずいた。

「多摩川のあたりは万葉集にもよく詠まれてるみたいだな。都内にも歌碑はあるよ。一度行ってみるか?」
「おまえとか?」
「うん、俺もおまえとは行きたくないよ」

 だったら言うな、と真次郎はむくれ、隆也は笑う。きみには万葉集よりはこっちのほうがいいんじゃないか? 江戸の俳句だっていっぱいあるよ、と隆也が教えてくれた。

「花の雲鐘は上野か浅草か」松尾芭蕉

 ここは東京、時は四月。この歌は状況にもぴったりだ。俺には万葉集はむずかしいから、松尾芭蕉のほうがわかりやすくていいな。知り合ったばかりだっての、早くも乾に気持ちを読まれてしまった。

SHIN/18/END

 

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