ブログパーツリスト

counter

« 2018年12月 | トップページ | 2019年2月 »

2019年1月

FSキャラたちの「声」を有名人でイメージしたら?


主役たち

*本橋真次郎

ソウルシンガーのSEALかな。
このたぐいの声の方は黒人にはよくいますので、BOYZ Ⅱ MENの誰かとか、バリー・ホワイトとか、ライオネル・リッチーとか、日本人だったら鈴木雅之とか、深みのあるバリトンです。

*乾隆也

フィル・コリンズ、ジョージ・マイケル、キング・トーンズのメインヴォーカルの方……意外に思い当たるシンガーは少ないですが、基本的に明るく高い声です。

*本庄繁之

あちこちの男性ヴォーカルグループのベースマンの声を思い浮かべていただければ、シゲに近いです。

*三沢幸生

THE OVERTONESのティミーです。

*木村章

レッドツェッペリンのロバート・プラントです。

章「俺、この作者のおばさんって嫌いだけど、今日、この瞬間だけは好きだ。ロバート・プラントかぁ」
じーん、しみじみ、だそうです。

*小笠原英彦

柳ジョージ氏とか……。


脇役たち

*星丈人(山田美江子のモトカレ。大学の先輩)

声優の井上和彦氏。

*柴垣安武(大学の先輩で、パンクス)

パンクロックバンド、セックスピストルズのシド・ビシャス。

*金子将一(彼も大学の先輩で、美声のシンガーです)

ジノ・ヴァネリですかね。

*ミルキーウェイ(最近になってFSをひっかきまわすようになった、感情のこもらない歌をうたうシンガー)

漠然とした声のイメージとしては、GARNET CROWのヴォーカルの女性でした。

*徳永渉(シンガー)

徳永英明。

*桜田忠弘(歌手兼俳優)

声も同じく、福山雅治。モデルですから。

*相川カズヤ(アイドルシンガー)

同じく、モデルですから山下智久。

*真行寺哲司(ギタリスト志望のバイセクシャル美青年)

見た目は天使、中身は小悪魔ですから、いくら美少年がたくさんいる芸能界だといっても、哲司を演じてほしい男性はいません。←えらそう('_')

若いころのヘイデン・クリステンセンをもっと華奢にして小さくしたらいけるかなぁ。ということで、声もヘイデン・クリステンセン。外国人の方々には日本語を勉強していただきましょう。←えらそう((+_+))

*田野倉ケイ(哲司の保護者、作・編曲家)

遠藤憲一さんに声の出演をしてもらいたいです。

番外

*沢崎司(グラブダブドリブのベーシスト。別シリーズですが)

甲斐よしひろ。

とりあえず、以上です。


ガラスの靴38「理由」

「ガラスの靴」

     38・理由


 ゆらゆらと人々の影が揺れているようなのは、すこし酔ってきたせいか。アンヌはどこ? と見回すと、ふたりの女性とひとりの男性とアンヌの四人がいるのが見えた。

 日ごろは平凡な主夫の僕。「主婦」だったら平凡で「主夫」だと驚かれたりもするが、シュフの日常には性別は無関係だ。そんな僕をアンヌは時々パーティに連れてきてくれる。そのくせ、交友関係の広いアンヌは僕をほったらかしにする。今夜も音楽業界人のパーティで、僕はアンヌにほったらかされていた。

 そうなると知り合いを探してすり寄っていくしかないのだが、今夜は知っている顔が見つからない。やむなくお酒を飲んでいたので酔いつつあった僕は、ふらつき加減の足取りでアンヌたちのところに寄っていった。

「杉内ってバツイチだったんだ」
「いやぁ、お恥ずかしい。そうなんですよ」
「で、麗羅のほうが今ツマなんだね」
「そうです。琴音が元ツマ」

 モトカノ、イマカノ、ともいうのだから、モトツマ、イマツマ、でいいのだろう。杉内という名の男性は、アンヌから噂は聞いたことがある、バブルの残党だろう。先日会った新津義孝くんと同じ広告代理店勤務だそうだが、杉内さんのほうが年を食っている分、バブルのひきずりぶりも激しいらしい。

 華やかでグラマーなのがイマツマ、レイラ。モトツマ、コトネはおとなしげで地味な感じで、名が体をあらわしている。僕の先入観では異性の趣味は一貫しているものだと思っていたが、杉内さんはずいぶんとちがったタイプと二度、結婚したようだ。

「こんなところで琴音と会うとは思わなくて……元気だった?」
「ええ、まあね」
「琴音さんって話にはちらっと聞いてたわ。お会いしてみたかったのよ。よろしくね」
「は……ええ」

 別れた夫のイマツマによろしくと言われるとは、意表をついていたのか、琴音さんはいささかびっくりの顔をして、それでも麗羅さんと握手した。

「おーい、アンヌ、ちょっとちょっと……」
「おー、行くよ」

 音楽業界のパーティなので、アンヌのバンドの連中も来ている。誰かに呼ばれたアンヌは僕を紹介もしてくれずに行ってしまい、僕は杉内さんとふたりの女性の会話を聞いていた。

「琴音さんと離婚した理由って聞いてなかったな。どうして別れたの?」
「ああ。僕は別れたくはなかったんだけど……」
「まだ言ってる。しようがなかったんじゃないの」
「別れたくなかったの?」

 麗羅さんの眉がぴくっとし、琴音さんのほうは慈愛を感じるような微笑みを浮かべる。杉内さんはため息をひとつこぼした。

「僕の母親のせいなんだよね。あのころの僕はマザコンだったよ」
「お母さん、一年前に……」
「亡くなられたとは聞いたけど、私はもう他人だから……今さらですけどご冥福をお祈りします」
「ありがとう、琴音」
「私はお母さんが亡くなってから杉内と結婚したんだけど、どういうこと?」

 そばに立っている僕にも説明してくれるつもりらしく、杉内さんは言った。

「僕の母は息子命だったんだよ。僕はひとりっ子で、小さいときからそうやって育てられたから、それほどおかしいとも思ってなかったんだね。父は忙しくて母にも僕にもかまっている暇もなかった。だから母と僕は仲良しの密着親子だったんだ」

 幼稚園から受験をして名門私立に入学したから、周囲にもそんな親子が大勢いた。そのせいで普通だと思ってたんだな、と杉内さんは苦笑した。

 うちのお母さんはどうだったかな。僕もひとりっ子、ひとり息子だったけど、お父さんは別にそんなに多忙でもなかったから、子どものころは三人で出かけたりもした。僕は両親ともに好きではあったが、それほどに仲良しでもなかった。

 どこがいちばんちがっていたのかといえば、杉内さんはママの期待に応えられる優等生だったってこと。かたや僕は勉強もスポーツも大嫌いな無気力少年だったってことか。
 ともあれ、杉内さんはそうやって名門私立幼稚園から大学まで進み、景気のいい時代だったからスムーズに広告代理店に就職した。一度も挫折することもない息子の人生を、ママは優しく誇らしく見守ってくれていたのだそうだ。

「で、琴音と結婚したんだよ。琴音は取引先の社員で、なんの難点もない女性だった。母も結婚すると話したときには賛成してくれたよ。父にも多少は時間ができたから、これからは夫婦で楽しくやっていくわ、って言いながら、寂しそうな顔をしていたのは覚えてるよ」

 アンヌが僕のうちに来て、できちゃったから結婚したい、笙に主夫をさせると言ったときの、父の愕然とした顔を僕も思い出した。母も驚きはしたのだろうが、母のほうがずーっと立ち直りは早かった。

「だけど、本音では賛成できなかったみたいだ。琴音が気に入らないのではなくて、誰が相手でも気に入らなかったんだろうと今になれば思うよ。母は可愛い息子をいつまでもそばに置いておきたかった。しかし、いい年の息子がずっと独身だというのも困る。世間体も悪い。だから許したけど、やっぱり琴音が気に入らない。というよりも、僕の妻たる女が気に入らなかったんだね」

 その点、うちの両親はアンヌが嫁というよりも、僕のほうがヨメみたいなので、そういう感情は少ないのかもしれない。母よりは父が気に入らないらしいのは、僕の立場であってアンヌそのひとではないはずだ。

「僕がいる場所では、琴音とも睦まじくしていた。その実、陰ではイヤミを言ったりねちねち意地悪をしたりしていたらしいんだな。僕はそんなことにはひとかけらも気づかなかった。あまつさえ、それに耐えかねた琴音が打ち明けてくれたときにも……」
「もういいじゃない、昔のことなんだもの」

 遮ろうとした琴音さんに寂しげな笑みを向けて、杉内さんは続けた。

「きみは僕の母親の悪口を言うのか。そんなふうにしか受け取れないきみの性根がまがってるんだ。琴音がそんな女だなんて知らなかったよ。僕はきみの本性を見間違ってたね。そう言ったよね」
「……そうね」
「母のほうをこそ見間違えてたのに、僕は自分の愚かさに気づかなかった。そんなことから琴音と僕の仲はぎくしゃくして、母に愚痴をこぼしたりもしたよ。母は琴音をかばう発言をしたから、ほら見ろ、やはり琴音がひねくれてるんだ、まがってるんだ、ってね」

 麗羅さんの表情がどんどん翳っていく。それに気づいているのかいないのか、杉内さんはさらに言った。

「僕の気持ちも荒んでいって、ついに離婚になったんだよな。後悔しているよ」
「そうは言っても、あなたにはもう新しい奥さんがいるのよ」
「そうだね。言っても仕方ないよね」
「お母さんを最期まで大切にしていたんでしょ」
「本当のことに気づいたのは、母が亡くなって、父からいろいろ聞いたからだよ。父ももっと早く言ってくれたらよかったのに、あれで父も母を持て余していたんだね」

 見つめ合う元夫と元妻、夫婦ってすれちがうとこうなるんだなぁ、僕も反面教師にしなくちゃ、と思っていたら、どんっという音がした。麗羅さんが足を踏み鳴らす音だった。

「ああ、そうなの、そしたら離婚してあげるから、もう一度やり直せばいいじゃないの」
「麗羅、なにも僕はそんな……」
「落ち着いて、麗羅さん。もうこわれてしまったんだから、やり直すなんてことはあり得ないのよ。杉内さんの妻はあなたなんだから」
「そうだよ、麗羅。落ち着いて」

 やってらんないわよっ、と憤怒の表情で吐き捨て、足音も荒く麗羅さんは立ち去ってしまった。
 再び見つめ合う元妻と元夫。どうしてだろう。僕の胸がときめきはじめる。

 他人の不幸は蜜の味、だなんて、嘘だよ。僕はそこまで性格が悪くない。主夫だからって、スキャンダルやゴシップが好物ってわけでもない。ただ、ドラマを見ているような興味があるだけだ。僕の毎日は平穏すぎるから、だからって僕の日常に波風が立つのは歓迎できないから、他人のドラマにわくわくしてしまうだけ。それだけだ。

つづく

フォレストシンガーズ・短歌俳句超ショートストーリィ2019/1

FS俳句短歌超ショートストーリィ

2019/1

「なんだか……なんだろ、なんて言えばいいんだろ」
「ん?」

 ひょんなことから、元日早々乾さんとこうして肩を並べて歩いている。フォレストシンガーズの乾隆也は僕にとっては知らないひとではなく、昔馴染みの木村章の先輩というか仲間というか、なのだが、章だったらまだしも、乾さんとふたりで歩くってのは調子が狂うのだった。

「レイ、どうかしたか?」
「なんなんだろうね。僕らには盆も正月もなくて、そんなのを気にするほうがロッカーらしくないってか、こうやって言い訳してるのもロッカーらしくないってか」
「それでも、日本人だから?」
「なのかなぁ」

 日本人なんだから、盆や正月を気にするってわけか。そんなことはまったくない!! とは言い切れない。

 国籍不明みたいな愛称だけを名乗っているロックバンドのギタリストとして、僕はロッカーだよ、って顔をして生きている。年中行事? そんなの僕らには関係ないね、ってさ。

「で、レイはなにが言いたいんだ?」
「なにが言いたいのかよくわからないんだけど、元日だからこそなのかな。なんていうか、なんていうのかこの……」

 急に、乾さんは空を見上げた。

「元日の空青々と淋しけれ」原 石鼎(はら せきてい)

 なにそれ? 俳句? 
 いや、僕の言いたかったことはそんなんじゃなくて……口の中でもごもご呟きながら、僕も空を見上げる。ほんとだ、青々とした空だ。だから僕は寂しい? 

 そんなことが言いたかったんじゃないよ、ではなく、そっか、僕はそう言いたかったんだ、なんて気持ちになってしまう。なんだかとても不思議な気分。

END


ガラスの靴37「失恋」

「ガラスの靴」


     37・失恋


 暗い表情の男性を連れて帰ってきたアンヌは、なんともいいようのない顔をしている。笑いたいのか怒りたいのか、そんな顔をしたアンヌは、その男性を僕に紹介してから消えてしまった。
 シャワーを浴びてくるから、おまえが彼の相手をしていろ、だそうだ。

「おなかすいてる?」
「いえ、別に……」
「飲んできたんでしょ。もっと飲みたい?」
「飲みたくはないです」
「お茶漬けでも食べる?」
「おかまいなく」

 酔うとお客を連れてくるのがアンヌの癖だ。僕たちのマンションは広くて部屋数もたくさんあるので、酔っ払いが多少大きな声を出しても、眠っている胡弓の邪魔にはならない。胡弓は寝つきが良くて寝たら起きない、赤ちゃんのときから熟睡型のやりやすい子なので、そういう意味でもお客は邪魔にはならない。

 三歳の息子を寝かしつけると、僕は暇になる。ロックバンドをやっているアンヌが帰ってこない日もよくあるから、ひとりの夜はテレビを見るくらいしかすることもない。なのだから、アンヌがお客を連れてくるのは大歓迎だ。大歓迎なのだけれど。

 ダイニングテーブルについてうつむいて、ひたすらに暗い顔をしている彼は、新津義孝、二十八歳、既婚。ただいまアンヌたちのロックバンド、「桃源郷」のもっとも大きな仕事である、総合ブライダル産業PRプロジェクトで関わっている、広告代理店の社員だそうだ。

 広告代理店ってどんな仕事をしてるの? 奥さんはどんなひと? 子どもはいるの? 質問したいことは多々あれども彼が暗すぎて尋ねられない。しようがないのでウィスキーとミックスナッツと、夕飯の残りのミートボールやポテトサラダを出した。

「どうしたの? すごーく暗いよね」
「そうなんです。暗いんです」
「アンヌには話したの?」
「ええ。聞いてもらったんですよね。そしたら、アンヌさんったら絶句して、その話を笙さんにも聞かせてやろうって言って、ここへ連れてこられたんです」

 実は話したかったのだろう。水を向けたら饒舌になった義孝くんは、切々と語った。

「結婚してから一年くらいだから、子どもはまだいません。僕はほしいんだけど、妻はあまりほしくないみたい。彼女は仕事が好きだから、主婦としてではなく仕事人間として生きたいんですよね。僕はそんな彼女が好きなんだから、不満はありませんよ。彼女も僕と同い年なんだから、子どもは三十歳くらいになってから作ってもいいんですものね」

 妻の名は野菊。芽愛紅だの摩丁香花だのという名前と較べれば平凡なほうだろう。野菊さんは女性雑誌の編集者なのだそうで、トレンディな仕事をしているカップルというか、なんだかバブルっぽいというか……いずれにしても僕とは縁のない仕事だ。

「のんちゃんって呼んでるんですけど、このごろ、彼女が元気ないんですよね。どうしたの? って訊いても、ヨシには関係ないからって話してくれない。言いたがらないのを無理やり聞き出したところによりますと……」

 失恋したのよ、だったのだそうだ。
 は? 失恋って義孝くんに? 僕も耳を疑ったが、夫の義孝くんはさらにだった。

「誰に?」
「仕事で知り合ったライター」
「……そのライターとつきあってたの?」
「ちょっとだけね」
「それって不倫でしょ?」
「そうなるかしらね」
「……そうなるかしらねって……」

 呆然としてしまった義孝くんの気持ちはわかる。アンヌの交流関係には、互いに浮気公認の夫婦は何組かいる。別の相手に恋をしたほうが新鮮味が持続するだとか、本当の愛があれば浮気ごときでは揺らがないだとか、パートナーを交換してセックスして楽しむだとか。

 夫婦双方が納得しているんだったらいいけれど、僕はいやだ。義孝くんもいやなのだろう。そのほうが普通の人間である。

「彼のこと、好きだったのよ。ヨシはヨシとして嫌いじゃないけど、いつもお米のごはんばっかり食べてたら、たまにはパンが食べたいって思うじゃない。人間としては当然の欲望だよ」
「そ、そうかなぁ」
「だからね、彼とちょっとだけつきあってみたの。いくら結婚していたって、人を好きになるのは人間として当然の感情でしょ? 誰にも迷惑はかけてないんだから、悪いことじゃないよね」
「僕には……」

 迷惑かけてるんじゃないの? と義孝くんは言いたかったらしいのだが、野菊さんに押し切られてしまった。

「それでつきあってたんだけど、ふられちゃったのよ。私が結婚してるからってわけでもなくて、潮時だろって言ってた。まあね、私だってヨシと離婚して彼と再婚したいってほどでもなかったし、あくまで遊びだったんだからかまわないと思ってたの。だけど、私、けっこう彼にはまってたんだな。痛手だったの。だから元気がなくなってるの。お願い、そっとしておいて」
「……わかったよ」

 わかったらいけないじゃないかぁ!! と僕は思うのだが、義孝くんは完全に野菊さんのペースに巻き込まれ、妻の失恋の痛手が癒えるまではそっとしておくと約束したのだそうだ。

「妻はまだ失恋から立ち直っていないので、僕とベッドに入る気になんかなれない、キスもいやだって言います。仕事が忙しい時期だからめったに顔も合せないんですけど、休みの日なんかもため息ばかりついていて、仕事をしていたらいっときは忘れてられるけど、暇だと思い出すわ、つらいわ、なんて言ってるんです」
「義孝くんみたいな暗い顔をしてるわけだ」
「そうなんですよね。僕にも妻の暗さが伝染してるんですよ」
「で、どうするつもり?」
「のんちゃんの失恋の傷が癒えるまで、待つしかないでしょ」
「あ、そ」

 はあっ!! と大きな吐息をついて、義孝くんは頭を抱える。僕はなんともいえない気分になる。人の気配に振り向くと、濡れた髪をしたアンヌがうしろに立っていた。

「それでアンヌ、変な顔をしていたんだね」
「聞いたか? たまんねえだろ。アホかって笑ってやろうかと思ったんだけど、ヨシは深刻だし、野菊って女もマジに落ち込んでるらしいんだよ。笙の感想は?」
「そうだなぁ」

 頭の中がぐるぐるする。野菊さんに会ってみたいような、会ってその話をして、僕が人の道を説いたとしても、言いくるめられてしまいそうにも思える。苦々しい顔をして義孝くんを眺めているアンヌに言ってみた。

「夫婦っていろいろだよねぇ」
「うん、まさしく」

 僕ら夫婦の意見は一致していた。


つづく

194「ニードミー」

しりとり小説

194「ニードミー」

 ベッドでプロポーズしたのは、その場では勢いが大部分だったのだろう。ココロと抱き合っていて恋情が高まってきて、あふれ出そうな想いを、結婚してほしい!! との言葉に込めた。

「さっき、なんて言ったの?」
「聞こえてなかった?」

 その最中にはエクスタシーのただ中にいて、大剛の言葉がココロには意味をとらえられなかったのだろう。だからもう一度、今度こそは勢いだけではなくて愛をいっぱいにこめて。

「ココロちゃん、僕と結婚して下さい」
「大剛と結婚?」

 満ち足りてベッドにいる大剛のかたわらで、ココロは丸い目をぱちくりさせた。

「大剛くんは私と結婚したいの? 男の本当の愛は結婚にしかない、って聞いたことがあるけど、大剛はそんなに私を愛してるの?」
「そうだよ、ココロちゃん」
「そうなんだ。ありがとう」

 戸惑っているようなのは、大剛が若すぎるからだろうか。

 母と母の友人、であるらしいとしか思っていなかった女性と、その女性の娘、花との四人暮らしで、父は時々訪ねてきたり外で会ったり、遊びに連れて行ってくれたり、母たちに用事があるときには大剛と花のふたりともの面倒を見てくれたり、そんな存在でしかなかった。

「お父さんって花ちゃんと僕の両方のお父さん?」
「そうだよ。お父さんは若いころに二股かけてて、大剛のお母さんと私のお母さんの両方とつきあってたの。だから大剛と花の両方のお父さん。男ってどうしようもないね」
「……?」

 小学生のときに花が教えてくれたのだが、大剛には意味がよくわからなかったものだ。

 意味など分からなくても成長はしていき、高校を卒業すると花は経理専門学校に進学した。同い年の大剛も、花ちゃんが行くのならば、と同じ学校に入学した。同い年なのであるが、大剛のほうがすこし誕生日が後なのもあり、性格的にも「弟」であった。

「結婚するの」

 二十三歳になった今年、花がそう宣言した。へぇぇ、早いんだなぁ、とは言ったが、花ちゃんが幸せになるんだったら僕も嬉しい、と祝福もした。

「結婚はやめたの」
「ええ? どうして?」
「どうしてだっていいんだよ。やめたものはやめたの」
 
 ところが、ほどなく花は前言を翻した。家庭の事情も理解していなかった子どもではないのだから、大剛にだって結婚ともなると容易には行かないらしいのはわかるようになった。

「大剛くん、私とつきあわない?」
「つきあうって、正式に恋人同士になるってことですよね」
「そうなの?」
「そうじゃないの?」

 結婚話がこわれたばかりの花に話すと傷つくかもしれないので内緒にしているが、先ごろ、大剛にも彼女ができた。大剛の会社と取引のあるOA機器メーカーの営業職で、八つ年上の三十一歳。ココロは体型はぽっちゃりしていて優しそう、声も穏やかで癒し系、ただし顔つきにはいささか険ありの、ギャップのある女性だ。

「友達でいいのよ。私はあなたよりも年上なんだから」
「僕は恋人になりたい」
「そんなに焦らないで」

 とは言ったものの、ココロとはベッドにだって入ったのだから恋人だ。職場にはココロと同年代の三十代独身女性は何人もいて、彼女たちは言うのであるが。

「うへぇ、大剛くん、ココロさんに食われちゃったの?」
「うわぁ、大変だ。妊娠させないようにしなくちゃね」
「大剛くんが気を付けてても、勝手にできちゃうんじゃない?」
「そうだねぇ。孕んじゃったらこっちのもんだよね」
「三十代の女とつきあうなんて、大剛くん、勇気あるわぁ。ご愁傷さま」
「これで大剛くんの将来は見えたようなもんだね」

 職場のお姉さんたちの台詞も深い意味がわからなかったので、ココロに話してみた。

「それはね、彼女たちが私に嫉妬してるのよ」
「嫉妬?」
「自分たちは三十過ぎても彼氏もいなくて、結婚相談所に登録してもろくな男がいなくて、自分が好きになったとしても相手にしてもらえない。感性が磨滅してしまってて、恋愛感情もなくなりつつある。自分たちはそんななのに、よその会社の私が若い大剛くんをとりこにしちゃったじゃない? だから妬いてるのよ。大剛くんって職場の先輩たちにもててたのね。私も妬けちゃうな」

 けっこうきつい台詞のようではあるが、おっとりした口調で言ってぽっちゃりした手で大剛の頬を撫でるので、ココロの優しさばかりがしみるのであった。

「ココロちゃん、僕と結婚しようよ」
「そうねぇ……」

 ゆるゆると、ココロは言った。

「私には好きで好きでたまらない男性がいるの。そのひとにはわけがあって私と結婚はできないのね。結婚なんかできなくても、好きなんだからかまわないと思ってた。彼も私を好きではいてくれるのよ」
「……それって……」

 頭の回転が鈍いのはまちがいないらしい大剛は、ココロの台詞を咀嚼して消化しようとしていた。

「二番目に私が好きなのは大剛くん。大剛のことだって好きだよ。結婚かぁ、考えさせて」
「はい。ゆっくり考えて下さい」

 咀嚼して消化してたどりついた結論は、ココロちゃんの台詞を他人に話してはいけないかな、だった。単につきあっているというだけで、職場のお姉さんたちはココロを人食い鬼ババのように評した。他に好きな男がいるのに、大剛ともベッドに入るココロを、彼女たちはなんと言うのだろうか。

「大剛には彼女はいるの?」

 が、花は他人ではないので、質問されて正直に、あらいざらい話した。

「その一番好きな彼とは、不倫なのかもしれないね」
「不倫っていうのは、そのひとが結婚してるってことだよね? ココロちゃん、かわいそうに。好きなひとが結婚してるってすごく悲しいことだろ。僕のことも好きなんだったら、僕と結婚して幸せにしてあげたいよ」
「大剛は真面目にそう言ってるんだね。本気でそう思ってるんだったら結婚すればいいよ。でも、うちの事情のことはちゃんと話してね」
「ちゃんと話せる自信ないなぁ」

 だったら私が話してあげようか、大切なことなんだから、と花が提案してくれたのもあり、ココロと花を引き合わせた。

「花さんのお母さんと大剛さんのお母さんは、同じ男性を好きになってつきあって妊娠した。彼は無責任な男だったから、女性同士で相談したのね。子どもを産んでふたりで育てていこうって……素敵」
「素敵って、心から言ってます?」
「言ってるわ」

 喫茶店で三人で話していたら、花が大剛に微笑みを向けた。

「うん、大剛、ココロさんと結婚しなさい。ココロさん、大剛と結婚してやって。私からもお願いします」
「そうねぇ。彼とは結婚できそうにないんだから、大剛くんとだったらしてもいいかな」
「そうなんだってよ。大剛、おめでとう」

 つまり、大剛の母と花の母の生き様を素敵だと言ってくれたココロだから? 花がそう言ってくれるのは、大剛にはたいそう嬉しかった。結婚してあげてもいいよ、と言ってから、ココロは夢見るような表情になった。

「結婚の形も家族の形もいろいろよね。私もがんばって彼の子ども、産もうかしら」
「その、好きだけど結婚できない彼の子ども? それで、大剛とは結婚してその子をふたりで育てるの?」
「そうよ。それもいいんじゃない?」
「いいかもね。大剛……」
「大剛……」

 近い将来の妻と、母親ちがいの姉がそろって大剛を見つめ、にっこりした。なんだかむずかしいことを話していたようだけど、ココロちゃんの産んだ子なら僕の子どもだ。僕のお父さんもそうしていたように、母親に協力してしっかり育てていこう。ん? うちのお母さんたちとココロちゃんは事情がちがう? そうなのかもしれないけど、そうだとしてもかまわないじゃないか。

 変則的な家庭に育ったのだからこそ、ありふれてはいない家族のあり方も受け入れなくては。そんなことを教えてくれたココロちゃんと花ちゃんには感謝しなくちゃ。

次は「ミー」です。


 

ガラスの靴36「夫婦」

「ガラスの靴」

     36・夫婦

 晩婚ゆえの少子化を防ぐために、ウェディング業界の活性化をはかりたいのだそうだ。そのために大々的にプロモーションを行う。そのためには音楽も必要だ。ぜひ、桃源郷にお願いしますとのことだった。

「あたしらの音楽が結婚業界を活性化させるか?」
「普段、俺らがやってる音楽ってのは、結婚しようとは正反対だけどな」
「そういう曲をやってる桃源郷が作ったプロポーズの歌ってのが斬新なんじゃねえの?」
「あの桃源郷でさえも結婚したがる、うちで結婚式を挙げたがるってか」

「アンヌは結婚してるし、吉丸とマルヤはバツイチだし」
「ゴーとタクヤはあれだし……」
「あれってなんだよ、あれって?」

 我々、桃源郷には五人のメンバーがいて、各々ふざけたステージネームを名乗っている。あたしの新垣アンヌは本名だが、「・」がついている。あとの四人は本名をもじって、姓と名が同じだったり、轟だったら「ごう」とも読むからと「ゴー」だったり、タクマでタクヤだったりと、遊び心しかない名前だ。

 ヴォーカル 新垣・アンヌ
 ドラム 吉丸・ヨシマル
 ギター 丸谷・マルヤ
 ギター 宅間・タクヤ
 ベース 轟・ゴー

 名前はいいのだが、こうして五人で相談していても、まともなのはあたしだけだとつくづく思う。

 吉丸は一度は結婚したものの、男と不倫して離婚して、不倫相手と事実婚同棲して、その相手を息子の継母にしている。その上、あろうことかまたもや浮気して、それぞれに父親のちがう子どもを持つ未婚の母の子の、三人目の父親になっちまった。

 マルヤも一度は結婚したのだが、まったく家に帰らなくて、女房に愛想をつかされて離婚された。俺、結婚には向いてなかったね、とほざくので、だったら最初から結婚するな、と怒ってやった。

 タクヤとゴーは、女よりもギャンブルが好きだとか、ギターのほうが好きだとか、馬が好きだとか、母ちゃんさえいればいいんだとか、セックスは大嫌いだとか、女なんか大嫌いだとか、風俗があればそれでいいとか、アンヌや吉丸やマルヤみたいになりたくないとか、本気なのか嘘なのかも不明な言葉を吐き散らしている。

 たしかに、マルヤや吉丸のもと妻は不幸だったのだから、ゴーもタクヤも結婚なんかしなくていい。馬鹿な男は一生、音楽を恋人にしてたわむれていればいいのだ。

「アンヌがまとも?」
「専業主夫と結婚してる女ってまともか?」
「笙って奴はまともなのか」

 などとうちの男どもは言うが、あたしはまっとうだ。専業主夫の夫とひとり息子をまともに働いて養って、まあまあいい暮らしをさせてやっていて、浮気もしないあたしのどこがまともじゃないって?

 それもまあいいとして、なんだって桃源郷に結婚プロジェクトの曲を作らせようとなったのかは謎だが、おいしい仕事なのだから引き受けた。
 一大プロジェクトのCM第一弾は、総合ウェディングプロデュース集団、「イシュタル」を宣伝する。イシュタルとはメソポタミアの愛の女神の名前だそうだ。

 音楽関係の責任者として紹介されたのが、榛原由里。女は大嫌いだとほざいているくせに、彼女を見たうちの男どもの目の色が変わった。

「ユリちゃん、いくつ?」
「二十五歳です」
「その年齢で責任者なんだ。大卒だったらまだ社歴は短いんでしょ」
「大学院卒ですけど、アメリカで飛び級をして進学しましたので、二十歳でうちの会社に入ったんですよ。それでもまだ主任ですから、ひよこですけどね」

 大学卒なのは吉丸のみで、他は全員、高卒、高校中退、大学中退、中学校で登校拒否、というのが桃源郷のメンバーである。誰がどれとは言わないが、大学中退、専門学校卒のあたしはうちでは高学歴のほうなのだ。
 そんなあたしたちから見れば、帰国子女で飛び級進学大学院卒なんてのは世界がちがいすぎるのだが、そこはロッカー。身分の差は見ないふりして、女嫌いのふりもかなぐり捨てて、仕事の話もそこそこに、男どもは由里に質問を続けた。

「彼氏、いるの?」
「いるんだろうけど、まだ二十五だもんね。これからだもんね。結婚なんてのは先の話でしょ」
「今どき、二十代は子どもみたいなものだもんな」
「すみません。私、既婚です」

 へ? と口をぽかんと開けて、男どもは全員が間抜け面になった。
 それでようやくまともに打ち合わせができるようになったので、あたしとしては由里が既婚なのはありがたかった。ロッカーなんて人種は気に入った女が結婚していても気にしない場合も多いが、由里はあたしたちの業界の女とはちがいすぎる。さすがのアホ男どもも毒気を抜かれた体になって、あとは真面目に仕事の話をしていた。

 仕事の話は一度では終わらない。世間さまからはみ出したロッカーたちが、思い思いのぶっ飛んだ格好をして、一流企業の会議室に何度も集まる。広告代理店も大手だから、あたしたちが平素は触れ合わない人種とも話をする。音楽の話ならばあたしたちのほうが得意だから、表面上はエリートたちがロッカーを立ててくれていた。

 そうしているうちには由里とも親しくなる。プライベートな話もするようになる。うちのメンバーどもは危険なので近づけないように防御していたから、自然、あたしが由里と一番親しくなった。

「そっかぁ、亭主はだいぶ年上なんだね」
「ええ。日本に帰国して一年だけ通った、大学院で知り合ったんです」

 すると、大学教授か? 由里は彼女の夫について詳しくは語ろうとしないので、誘ってみた。

「うちには専業主夫がいるんだよ。見たくない?」
「そんな、珍獣みたいに……でも、笙さんって美少年なんでしょ。お会いしたいかな」
「美少年っていうには薹が立ってきたし、このごろ贅肉がついてきたからダイエットさせてるんだけど、若いから汚くはないよ。料理もまあまあ上手だから、うまいものを作らせるよ。遊びにくる?」
「ええ、よろしかったら」

 約束が整って、由里が夫を連れて我が家に遊びにきた。
 我が家の専業主夫は朝から張り切っていて、綺麗で頭のいいお姉さんが遊びにくるんだよ、と息子にも言っていた。綺麗なお姉さん、ママ、ママが一番、息子の胡弓はそう言い、そりゃそうだ、と笙も同意はしていた。

「いらっしゃーい。あれ? お父さん?」
「いえ、夫です」
「はじめまして。榛原守と申します」
「ええ? ええ? 旦那さんなの?」

 こら、笙、考えなしに口にするな、とあたしは笙を叱ったが、無理もない。由里のうしろでかしこまっている男は、髪も薄くて貧相な身体つきをした、五十代にしか見えないおっさんだった。

「えらい年上なんだね」
「いえ、十五歳だけですよ」
「十五歳ってのはけっこうえらい年の差だけど、じゃあ、守さんってまだ四十?」
「ええ。老けて見られるんですよね」

 喋っているのは由里ばかりで、守は苦笑いしているだけ。昼間なので胡弓も一緒に食卓を囲むと、由里は如才なく笙の手料理を褒めてくれた。ね、おいしいね、と話を振られても、守は微笑んでうんうん、と答える程度だ。

「守さんって大学の先生?」
「いいえ。私とは教室で一緒だったんですけど、結局は学者になるのは断念して、普通にサラリーマンになったんですよ。工場勤務の会社員です」
「四十近くまで大学院にいて?」
「まあそうなりますけどね」
「じゃあ、給料安くない? 由里さんのほうが高給取り?」
「ええ、まあ、そうですね」

 根掘り葉掘り、笙が由里に質問する。笙の場合は主夫の好奇心だから、うちの男どもとは質問の傾向がちがう。あたしも興味なくはなかったので、笙には好きにさせておいた。

「家計費ってどうしてるの?」
「適当に」
「由里さんのほうが多く出してるんでしょ? 由里さんって仕事は忙しいんでしょ」
「暇ではありませんね」
「だったら、守さんは主夫になればいいのに」

 主夫仲間がほしいのか、笙は単純にそう言っているらしいが、守は苦笑いするばかり。由里は困惑顔で、まあ、それはねぇ、まあねぇ、などともごもご言っていた。

「あれって絶対わけありだよね」
「どんなわけがあるってんだ?」

 結局、笙がうるさかったせいか、ランチがすむと由里と守は帰っていってしまった。あたしは胡弓を昼寝させ、笙が食卓の片づけをすませると、笙はしたり顔で言った。

「だって、あの結婚って由里さんにはなんのメリットもないじゃん」
「うーん、そうかな」
「守さんのほうは大ラッキーでしょ。若くて美人で高給取りの女性と結婚して、ひとも羨むってのは守さんみたいな男のことじゃない? あれほどの嫁はまずいないよ。あ、アンヌは別だからね。僕は守さんと変わってあげるって言われても、アンヌのほうがいいからね」

 そんなの当然だろ、と言い捨てると、笙はてへへと笑った。

「あれは由里さん、なにか弱みを握られてるんだよ。犯罪の匂いもするね」
「……いやだったら別れりゃいいだけの話だけどな」
「そうはできない重大な原因があるとか? だって、あのおっさん、なにかいいとこある?」

 いくら考えても、そんなものはなかった。
 ちびで貧弱な身体つき。笙と身長も体重も同じくらいではなかろうか。笙は若いからまだしも見られるが、中年がああではみすぼらしいったらありゃしない。
 守も大学院卒なのだから頭はいいのかもしれないが、そんな片鱗も見えないし、工場勤務で収入も乏しい。いいとこなんかひとつもないとしかあたしにも思えなかった。

「若くて綺麗な女のひとが、あんなおっさんと結婚してお金だって自分がたくさん出してるんでしょ。つきあってたころも割り勘だったって言ってたよ」
「若くて綺麗なあたしは、おまえを養ってるけどな」
「僕だって綺麗だし、こうしておいしいものを作ってるし、胡弓をいい子に育ててるでしょ」
「自分で言うな」

 とはいうものの、笙は事実、主夫としては役立っている。笙がいなければあたしは、ロッカーをやって胡弓を育てて、家事もやってと八面六臂の活躍をしなくてはならないのだから、専業主夫を厭わない笙と結婚したのは正解だったのだ。

「なんでだろうなぁ」
「うーん、なんだろうなぁ」

 ふたりして、どうして由里は守と結婚したのか、まちがえて結婚してしまったにしても、どうして離婚しないのか? と下世話な推理をしても答えが出ない。
 なので、その次に会ったときに由里に単刀直入に尋ねてみた。

「私がどうして守さんと結婚したのか? 簡単ですよ」
「……簡単なのか」
「はい」

 その答えは、愛しているから、だった。

「心配ないからね
 きみの勇気が誰かに届く明日はきっとある

 どんなに困難でくじけそうでも
 信じることさ」

 ……必ず最後に愛は勝つ、あたしの頭の中では、ノーテンキな歌のフレーズが響いていた。

つづく


 
 

いだてん1

はじめてオリンピックに出場した男。
日本にはじめて、オリンピックを呼んだ男。

フィクションもまじえ、おそらくは架空の人物もまじえて描かれる、明治から昭和にかけてのオリムピック噺。
「いだてん」

こんなに新しい時代は大河ドラマ史上初ですよね?
メインストーリィがフィクションなのも初だとか?
初回を見ていてけっこうわくわくしました。

私はオリンピックにも(さらに言えば、2025年大阪万博にはさらに)あまり興味ないし、そもそもプロ野球以外はスポーツ自体に興味ないんですけど、それでも。

興味あるのはこの「時代」です。
クドカンさんの脚本にも興味あります。

去年の大河は大好きな幕末で、「翔ぶがごとく」を思い出す西郷&大久保メインのストーリィがとても楽しみでした。
面白くなくはなかったんですけど、なんだかなぁ。
なんなんでしょ。物足りないとでも申しましょうか。

特に楽しみにしていたのは半次郎さん。
「翔ぶがごとく」の杉本哲太さんが好きでした。
半次郎さんを好きになったのは、哲太半次郎がきっかけだったかも。

その後、映画の「半次郎」も見ましたが、ぎょぎょぎょ。
なんでこんな年寄りにやらせるの? でして、ひたすらがっかり。

「西郷どん」の大野拓朗さんは、ルックス的にはかっこよかったですね。
今までに見た半次郎さんの中では、いちばん綺麗。
今どきの男優さんって綺麗だもんなぁ。綺麗すぎるきらいはありましたが、あの半次郎さんもけっこう好きでした。

もちろん、主役の西郷さんもはまり役。
ストーリィもよかったんですけど、なんだか物足りなかったのはなぜでしょう。

ともあれ、今年の異色大河ドラマはとても楽しみです。
主役の「いだてん」登場シーンにもわくわくしました。

押川春浪だなんて、SFファンにはなじみの深い名前も出てきたりして。
バンカラ学生だのくるまやさん(にんべんの「くるま」変換されません)だの。
明治から昭和にかけての、私にとってはノスタルジックな時代そのものに、とーってもわくわくするのです。


Dwjljhlucae57_d

ガラスの靴35「褒賞」

「ガラスの靴」

     35・褒賞

 いやだって言ってるのにぃ、という、甘えたような女性の声が聞こえて反応してしまったのは、僕もいやいや通っているからだ。会員制のジム。ここはわりと入会金も会費も高いので、裕福なメンバーが集まっている。トレーニングルームに入ってきた親子連れらしき女性たちも、金持ちに見えた。

「いやだいやだばかり言ってないで、がんばってみなさいね」
「ママやパパは言ってたじゃない。女の子はふっくらしてるほうか可愛いって。ココは可愛いっていつも言ってたのに、どうしてよ?」
「ココは可愛いわよ。だけどね、ほんのちょっと痩せたらもっと可愛くなるの。あなたも納得して来たんでしょ。駄々をこねないでがんばって」
「やだなぁ。運動って嫌いだもん」

 親から見れば娘は可愛いのかもしれないが、ほんのちょっと痩せたら可愛くなるというレベルではない。彼女の顔は僕の二倍ほどあり、腕が僕の太ももほどあり、妊娠何か月? と訊きたくなるようなおなかをしているわりには、バストは平坦な身体つきだ。

「食事を減らすのはもっといやなんでしょ?」
「ちょっと痩せるだけだったら、エステでどうにかならないの?」
「エステにも行ったじゃないの。運動はしなくちゃいけないって言われたでしょ」
「ああん、やだよぉ。痩せなくってもいいじゃないよぉ」
「だけどね、健康にも問題があるらしいから……ココちゃん、がんばってみましょ、ね?」
「やだっ。帰る」

 太りすぎていて年齢がわかりづらいが、若いのだろう。張りつめた肌からすれば若そうだ。ココちゃんを見たらアンヌだって、僕にダイエットしろとは言わないのでは? ココちゃんがダイエットをしなくてはならないのは当然だろうが、僕なんか全然太っていないのに。

 すこしばかり腹がたるんできたからって、おまえはスリムでなくちゃ存在意義がない、などとアンヌに厳命されて、僕はこのジムに通わされている。運動が大嫌いなのはココちゃんと同じだから、彼女には同情したくなった。

 あっちの親子に気を取られつつ、僕はちんたらとトレーニングをこなす。平日の昼間だから、トレーニングルームでマシンと取り組んでいるひとは少ない。僕の他には、時々ここで会う、平日が休みだと聞いているきりっとした美人と、かなりの年輩の女性がペアになって柔軟体操をしているだけだった。

「……みたいに、なりたくない?」
「どれ? あの女? あんなのおばさんじゃん。ココのほうが若いもん」
「これ、大きな声を出さないの。そりゃそうよ。ココちゃんのほうが……」
「ママ、言ったじゃん。パパだって言ったよ。ココほど可愛い女の子は世界中のどこにもいない。ココには白雪姫だって負ける。魔女の鏡も、世界でいちばん美しいのはココだって言うって」
「ええええ、そうよ。だから、ちょっとだけ痩せたらね……」
「痩せなくても綺麗だって言ったじゃん」
「だから……」

 親子は延々もめている。若いのはまちがいないにしても子どもではないだろうに、なんたる駄々っ子娘だ。自分がいやなトレーニングをしているのもあって苛々して、僕はココちゃんをじろっと睨んだ。僕と目が合ったココちゃんは、ママに耳打ちした。

「え? あ、そうみたいよ。ええ、ええ、ああ、そうなの? いいわ、ママがなんとかしてあげる」
「よーし、じゃあ、ちょっとだけダイエットしようかな。こんなのちょろいもんね」
「そうね。インストラクターさん、お願いします」

 そばに控えていたインストラクターが、はいと返事をしてココちゃんに寄っていく。ココちゃんは5Lサイズくらいかと思えるTシャツに黒いスパッツ。ママはデザイナーズブランドのTシャツと高そうなパンツ姿だ。ママは運動する気はなさそうだが、ココちゃんのトレーニングを見学するつもりらしい。

 みたいになりたくない? とママさんが言ったのは、むこうでトレーニングしている美人のことか。ココちゃんはあの女よりも私のほうが若くて可愛いと言っていた。親に溺愛されて可愛い可愛いと育てられ、まちがった自己評価にとらえられてしまったかわいそうな金持ち娘なのかもしれない。

「……さわらないでよ、えっち」
「いえ、さわってるわけでは……」
「可愛い女の子をさわりたい気持ちはわかるけど、ココはあんたなんかに興味ないからね」
「はい、そんな興味ではありませんから。ただ、こうして手を添えてですね」
「さわらないでってば。ママ、なんとかしてよ」
「さわらないで教えてやって」
「はあ……」

 気の毒といえばインストラクターさんはさらにで、ちらちらと見ていた僕に情けなそうな顔をしてみせた。誰がこんな脂肪の塊、さわりたいもんかよ、と言いたいのだろうと読めた。

 それから時々、ココちゃんとジムで会うようになった。ママはついてきたり来なかったり、ココちゃんは今どき珍しい家事手伝いらしいが、家には家政婦さんもいるようで、金持ち家庭の家事手伝いとは、親に小遣いをもらって花嫁修業の名目で遊んでいるニートという意味なのだろう。

 子どもは褒めて育てろと言う。僕だって胡弓には、かっこいいねぇ、そんな胡弓をパパは大好きだよ、胡弓はお利口さんだね、とほめまくっている。が、限度があるわけで。
 すべてを肯定され、叱られたり非難されたりすることは一切なく、あなたは美人、あなたは可愛い、あなたは最高、と育てられた金持ち娘の末路がココちゃんだ。僕も胡弓の育児は気をつけなくちゃ。

 太っていても健康だったらいいのだろうが、身体のためによくないと言われたようで、ココちゃんのママとパパは娘にダイエットをさせる気になったらしい。ママがついてきていればココちゃんもいやいやでもトレーニングしているのだが、ひとりで来ているとさぼりたがる。

 ジムに来るひとたちの時間は似通ってきていて、ココちゃんと僕、ココちゃんの初日にもいた美人と、初老の女性とがよく顔を合わせる。ココちゃんは僕をちろちろ見ながら、美人のそばに寄っていった。

「困るのよね」
「はい?」
「おばさんなんかは年だからそんなこともないんだろうけど、ここのインストラクター、セクハラするの」
「そうなの?」
「そうなのよ。彼、ココが好きなんだろか。おばさんとおばあさんだったら安心よね。いいね。ココも早くあなたみたいな年になりたいな」
「……そうね。そうなるのが一番ね」

 女性の年齢を言い当てては憤慨させている僕には権利がないのかもしれないが、言いたい。なんたる失礼な台詞。
 じっと見てしまっていると、ココちゃんは僕にいーっだ、とやった。

「見ないでよ。あんたなんか嫌い」
「……」

 こっちこそ、おまえなんか嫌いだよぉだ、と心で言って、僕は自分のトレーニングに戻った。ココちゃんはひたすら、美人さんの邪魔をしていた。

「新垣さん」
「はーい」

 そしてまた何日かすぎたある日、美人さんが僕に言った。

「本名はコウコさんらしいんだけど、自称も愛称もココなのよね。今日は来られないって言ってたわ」
「さぼり? そろそろリタイアかな」
「パーティがあって、親子三人で出席するんだって。すこし痩せたからご褒美にドレスを作ってもらったって言ってたよ」
「痩せたのか。そうは見えなかったけど……」

 彼女は僕の姓だけは知っているようだが、僕は彼女の名前を知らない。いつも美人さんと心で呼んでいた。

「痩せなくてもココはこんなに綺麗なのに、これ以上美人になってどうすんのよね、って言うから、返事に困ったわ。ま、それはいいんだけど、新垣さんは知らないよね」
「なにが?」
「ココちゃんはダイエットなんかしたくないけど、お母さんがどうしてもしろって言う。だったら……十キロやせたら本物のご褒美をもらうって」
「ココちゃんは僕を嫌いだって言って、あっち行けとか言うから、話をしたことはないよ」

 ご褒美か、僕も体脂肪率が一ケタになったら、アンヌにおねだりしようかな。気をよそにそらしていた僕に、美人さんが言った。

「そのご褒美ってあなただそうよ」
「あなたって?」
「新垣さん」
「……は?」

 くつくつ笑って、美人さんはとんでもないことを話してくれた。

「ココちゃんって二十歳はすぎてるらしいけど、恋愛経験はないのかしらね。人づきあいのスキルってものもないみたいだから、好きなひとにはつんけんしたがるところがあるみたい。ココちゃんが十キロ痩せたら、新垣さんがほしいんだって」
「ほしいって……」
「どうしたいんでしょうね。恋人にしたいのか結婚したいのか。お母さんは承知してくれたらしいよ」
「……う」

 そんなの、僕が承知しなかったらいいだけじゃないか。
 いや、しかし、財力にものを言わせて僕をアンヌから買い取るなんてことは……ないない、まさか、そんなことはあり得ない。

 ないとは思うけど、アンヌってなんでも面白がるからな。やばくない? ないない、ないよ。
 自問自答している僕を、他人事なのだから、美人さんはにやつきそうな顔で見ている。アンヌ、助けて……あ、そうだ。

 ジムをやめればいいんだ。

 これを口実にしたら、アンヌはジムをやめさせてくれるだろうか。それともそれとも、面白がって続けさせようとするか。アンヌだとどっちを選ぶんだろうか。

つづく

 

« 2018年12月 | トップページ | 2019年2月 »

2019年11月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
無料ブログはココログ