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194「ニードミー」

しりとり小説

194「ニードミー」

 ベッドでプロポーズしたのは、その場では勢いが大部分だったのだろう。ココロと抱き合っていて恋情が高まってきて、あふれ出そうな想いを、結婚してほしい!! との言葉に込めた。

「さっき、なんて言ったの?」
「聞こえてなかった?」

 その最中にはエクスタシーのただ中にいて、大剛の言葉がココロには意味をとらえられなかったのだろう。だからもう一度、今度こそは勢いだけではなくて愛をいっぱいにこめて。

「ココロちゃん、僕と結婚して下さい」
「大剛と結婚?」

 満ち足りてベッドにいる大剛のかたわらで、ココロは丸い目をぱちくりさせた。

「大剛くんは私と結婚したいの? 男の本当の愛は結婚にしかない、って聞いたことがあるけど、大剛はそんなに私を愛してるの?」
「そうだよ、ココロちゃん」
「そうなんだ。ありがとう」

 戸惑っているようなのは、大剛が若すぎるからだろうか。

 母と母の友人、であるらしいとしか思っていなかった女性と、その女性の娘、花との四人暮らしで、父は時々訪ねてきたり外で会ったり、遊びに連れて行ってくれたり、母たちに用事があるときには大剛と花のふたりともの面倒を見てくれたり、そんな存在でしかなかった。

「お父さんって花ちゃんと僕の両方のお父さん?」
「そうだよ。お父さんは若いころに二股かけてて、大剛のお母さんと私のお母さんの両方とつきあってたの。だから大剛と花の両方のお父さん。男ってどうしようもないね」
「……?」

 小学生のときに花が教えてくれたのだが、大剛には意味がよくわからなかったものだ。

 意味など分からなくても成長はしていき、高校を卒業すると花は経理専門学校に進学した。同い年の大剛も、花ちゃんが行くのならば、と同じ学校に入学した。同い年なのであるが、大剛のほうがすこし誕生日が後なのもあり、性格的にも「弟」であった。

「結婚するの」

 二十三歳になった今年、花がそう宣言した。へぇぇ、早いんだなぁ、とは言ったが、花ちゃんが幸せになるんだったら僕も嬉しい、と祝福もした。

「結婚はやめたの」
「ええ? どうして?」
「どうしてだっていいんだよ。やめたものはやめたの」
 
 ところが、ほどなく花は前言を翻した。家庭の事情も理解していなかった子どもではないのだから、大剛にだって結婚ともなると容易には行かないらしいのはわかるようになった。

「大剛くん、私とつきあわない?」
「つきあうって、正式に恋人同士になるってことですよね」
「そうなの?」
「そうじゃないの?」

 結婚話がこわれたばかりの花に話すと傷つくかもしれないので内緒にしているが、先ごろ、大剛にも彼女ができた。大剛の会社と取引のあるOA機器メーカーの営業職で、八つ年上の三十一歳。ココロは体型はぽっちゃりしていて優しそう、声も穏やかで癒し系、ただし顔つきにはいささか険ありの、ギャップのある女性だ。

「友達でいいのよ。私はあなたよりも年上なんだから」
「僕は恋人になりたい」
「そんなに焦らないで」

 とは言ったものの、ココロとはベッドにだって入ったのだから恋人だ。職場にはココロと同年代の三十代独身女性は何人もいて、彼女たちは言うのであるが。

「うへぇ、大剛くん、ココロさんに食われちゃったの?」
「うわぁ、大変だ。妊娠させないようにしなくちゃね」
「大剛くんが気を付けてても、勝手にできちゃうんじゃない?」
「そうだねぇ。孕んじゃったらこっちのもんだよね」
「三十代の女とつきあうなんて、大剛くん、勇気あるわぁ。ご愁傷さま」
「これで大剛くんの将来は見えたようなもんだね」

 職場のお姉さんたちの台詞も深い意味がわからなかったので、ココロに話してみた。

「それはね、彼女たちが私に嫉妬してるのよ」
「嫉妬?」
「自分たちは三十過ぎても彼氏もいなくて、結婚相談所に登録してもろくな男がいなくて、自分が好きになったとしても相手にしてもらえない。感性が磨滅してしまってて、恋愛感情もなくなりつつある。自分たちはそんななのに、よその会社の私が若い大剛くんをとりこにしちゃったじゃない? だから妬いてるのよ。大剛くんって職場の先輩たちにもててたのね。私も妬けちゃうな」

 けっこうきつい台詞のようではあるが、おっとりした口調で言ってぽっちゃりした手で大剛の頬を撫でるので、ココロの優しさばかりがしみるのであった。

「ココロちゃん、僕と結婚しようよ」
「そうねぇ……」

 ゆるゆると、ココロは言った。

「私には好きで好きでたまらない男性がいるの。そのひとにはわけがあって私と結婚はできないのね。結婚なんかできなくても、好きなんだからかまわないと思ってた。彼も私を好きではいてくれるのよ」
「……それって……」

 頭の回転が鈍いのはまちがいないらしい大剛は、ココロの台詞を咀嚼して消化しようとしていた。

「二番目に私が好きなのは大剛くん。大剛のことだって好きだよ。結婚かぁ、考えさせて」
「はい。ゆっくり考えて下さい」

 咀嚼して消化してたどりついた結論は、ココロちゃんの台詞を他人に話してはいけないかな、だった。単につきあっているというだけで、職場のお姉さんたちはココロを人食い鬼ババのように評した。他に好きな男がいるのに、大剛ともベッドに入るココロを、彼女たちはなんと言うのだろうか。

「大剛には彼女はいるの?」

 が、花は他人ではないので、質問されて正直に、あらいざらい話した。

「その一番好きな彼とは、不倫なのかもしれないね」
「不倫っていうのは、そのひとが結婚してるってことだよね? ココロちゃん、かわいそうに。好きなひとが結婚してるってすごく悲しいことだろ。僕のことも好きなんだったら、僕と結婚して幸せにしてあげたいよ」
「大剛は真面目にそう言ってるんだね。本気でそう思ってるんだったら結婚すればいいよ。でも、うちの事情のことはちゃんと話してね」
「ちゃんと話せる自信ないなぁ」

 だったら私が話してあげようか、大切なことなんだから、と花が提案してくれたのもあり、ココロと花を引き合わせた。

「花さんのお母さんと大剛さんのお母さんは、同じ男性を好きになってつきあって妊娠した。彼は無責任な男だったから、女性同士で相談したのね。子どもを産んでふたりで育てていこうって……素敵」
「素敵って、心から言ってます?」
「言ってるわ」

 喫茶店で三人で話していたら、花が大剛に微笑みを向けた。

「うん、大剛、ココロさんと結婚しなさい。ココロさん、大剛と結婚してやって。私からもお願いします」
「そうねぇ。彼とは結婚できそうにないんだから、大剛くんとだったらしてもいいかな」
「そうなんだってよ。大剛、おめでとう」

 つまり、大剛の母と花の母の生き様を素敵だと言ってくれたココロだから? 花がそう言ってくれるのは、大剛にはたいそう嬉しかった。結婚してあげてもいいよ、と言ってから、ココロは夢見るような表情になった。

「結婚の形も家族の形もいろいろよね。私もがんばって彼の子ども、産もうかしら」
「その、好きだけど結婚できない彼の子ども? それで、大剛とは結婚してその子をふたりで育てるの?」
「そうよ。それもいいんじゃない?」
「いいかもね。大剛……」
「大剛……」

 近い将来の妻と、母親ちがいの姉がそろって大剛を見つめ、にっこりした。なんだかむずかしいことを話していたようだけど、ココロちゃんの産んだ子なら僕の子どもだ。僕のお父さんもそうしていたように、母親に協力してしっかり育てていこう。ん? うちのお母さんたちとココロちゃんは事情がちがう? そうなのかもしれないけど、そうだとしてもかまわないじゃないか。

 変則的な家庭に育ったのだからこそ、ありふれてはいない家族のあり方も受け入れなくては。そんなことを教えてくれたココロちゃんと花ちゃんには感謝しなくちゃ。

次は「ミー」です。


 

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