ブログパーツリスト

counter

« ガラスの靴34「少女」 | トップページ | ガラスの靴35「褒賞」 »

フォレストシンガーズ・短歌俳句超ショートストーリィ2018/12

フォレストシンガーズ

2018/12 超ショートストーリィ


とてもとても風が冷たいけれど、家庭からの解放感は少なからずある。夫も息子たちも大好きなのに、開放感があるなんて思う自分に罪悪感もあったりして。

「恭子さん、仕事は終わった?」
「あ、はい、終わりました。乾さんも?」
「俺も一応一段落したよ」

 お疲れさま、と互いに互いをねぎらって、乾さんに誘われるままに海辺のレストハウスに入った。

 今日はレストハウスからも見えている海辺のホールでのイベントがあった。子持ちアスリートの苦労話をしてほしいと頼まれ、苦労話ってほどでもない日常生活を語った。昔からお喋りは大好きだから、講演というほどでもないトークならば私自身も楽しかった。

 大好きなお喋りの仕事のひとつ、ラジオのDJをペアでして仲良くなった、フォレストシンガーズの本庄繁之と結婚して、今、向き合っているフォレストシンガーズの仲間である乾さんとも親しくしてもらっている。乾さんはソロでイベントで歌い、夫は今日はオフだから息子たちと留守番。

「恭子の講演は乾さんにしっかり聴いてもらって、あとでどんなだったか教えてもらうよ」
「えー、怖い」
「怖くないだろ」

 出がけに夫はそう言っていた。長男の広大はちょっぴり心細そうにバイバイ、ママと手を振り、壮介はパパに抱っこされて眠そうな顔で見送ってくれた。

「恭子さんの講演、よかったよ。働くお母さんたちにも、これから結婚する女性にもためになったんじゃないかな」
「ためになるなんて大げさですよ。ただの雑談ですから。乾さんのソロもとーってもよかったです」
「ありがとう」

 あの歌、新曲ですか? このイベントのために書いたんだ、なんて話をしてから、レストハウスから出る。店から出た途端にびゅーっと風が吹き、むこうから来た小さな男の子が手にもっていた鮮やかな色のみかんを吹き飛ばしそうになった。

「しもやけの 小さき手して みかんむく わが子しのばゆ 風の寒きに」

 乾さんが呟いたのは短歌?

「落合直文っていう、明治時代の歌人の歌だよ。小さな手、みかん、風の寒さ、それで思い出した。あれれ、恭子さん、どうしたの? 泣いて……」
「泣いてなんかいませんよ」

 短歌や俳句の得意な乾さんがそういうのを思い出すのは自然なのだろうけれど、私も母親だから、こんな歌を呟かれたら息子たちを思い出してしまう。だからべそをかいちゃったんだね。ここにいるのが夫のシゲちゃんだったら、広大と壮介に会いたいよ、って肩にもたれられるんだけど、乾さんにはそうはできないからよけいに涙が……。

KYOKO/30/END


« ガラスの靴34「少女」 | トップページ | ガラスの靴35「褒賞」 »

フォレストシンガーズ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1286274/74858842

この記事へのトラックバック一覧です: フォレストシンガーズ・短歌俳句超ショートストーリィ2018/12:

« ガラスの靴34「少女」 | トップページ | ガラスの靴35「褒賞」 »

2019年1月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    
無料ブログはココログ