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フォレストシンガーズ・短歌俳句超ショートストーリィ2018/9

フォレストシンガーズ

俳句短歌超ショートストーリィ2018/9


 季節の先取りというのも、喫茶店のインテリアとしては大切かもしれない。夏はわりに暑い北陸の地にもちょっとだけ秋風が吹きはじめる九月、まゆりはカウンターの大きな花瓶にススキの束を挿した。

「あ、いらっしゃいませ」
「あら、銀色のススキ、素敵ね」
「ありがとうございます」

 今日、はじめてのお客は五十代くらいだろうか。ふっくら太った優し気な女性だった。彼女はコーヒーを注文し、まゆりに尋ねた。

「今日はご主人は?」
「会合がありまして、店に出るのは午後からになる予定なんですよ。主人にご用でした?」
「そうじゃないんだけど、うちと同じだなって思って……」
「同じ?」
「こちらの店主夫妻は年の差結婚でしょ。私の夫が来たらわかるわ。待ち合わせなのよ」

 それでおよそは察せられた。

 不思議な偶然が重なって、松原隼平が二十九歳も年下のまゆりに恋をしたと打ち明けてくれた。三十六歳の花嫁と六十三歳の花婿は去年、華燭の典を挙げ、夫が昔から営んでいる和風喫茶の「雲の通い路」でともに働いている。

 そういう意味で同じなのだったら、この女性の夫は七十代か八十代か。今どきの女性は実年齢よりも若く見えるほうが普通なのだから、彼女は意外と六十代だったりして。すると、どんな老人が店に入ってくるのか。夫とまゆりの将来像を見るようで、楽しみでもあり、ちょっぴり怖いようでもあるひとときがすぎた。

「お待たせ」
「そんなには待ってないわよ」

 ……絶句!! とはこのことだ。
 開店したばかりの店にはお客はたったひとり。平日でもあり、金沢の繁華街、香林坊のメインストリートからはすこし離れているので、お客はいつでもこんなもの。

 そこに入ってきた男性が、お待たせ、と声をかけたのだから、彼女の言っていた待ち合わせていた夫なのだろう。
 え? 嘘、お客にそんな顔を向けてはいけない。質問などもってのほか。平静を装っていないといけない。

「時間がないよ。悪いけど俺はお茶は……」
「そうね、ごめんなさい。ふたり分、コーヒー代をお支払いしますわ」
「いいえ、そんなのかまいませんから」
「そおお? 悪いわね」

 じゃ、と彼女は自分のコーヒー代を支払い、彼とともに店を出ていった。なのだから、ふたりの会話から推し量ることもできなかった。

 なんだか信じられないけど、そんなこともあるのでしょ。ほんとは母と息子なんだとしても、別にかまわないじゃないの。

 まゆりたちとは逆、夫が妻よりも二十歳以上は年下の夫婦。彼女は若く見積もっても五十代、彼は二十代にも見える青年だった。へええ、私はあれだったら、年上の夫のほうがいいな、とまゆりは肩をすくめた。

 「おりとりて はらりとおもき すすきかな」飯田蛇笏

END

 

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