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ガラスの靴1「結婚」

前書き

アヴァンギャルドなシンデレラストーリィ!!
なーんて言ってますが、たいしたことはないんですよ。

そういうのを書きたいなとこころざして書いた小説です。
改めて1からアップさせていただきます。

100話プラス外伝で完了予定ですので、おつきあいいただけると嬉しいです。
heart04


「ガラスの靴」

     1・結婚


 プラチナに染めた長い髪、眉のない顔。細身で背が高く、意志の強そうな顔をしている。このひとが噂の新垣アンヌか。不気味な女だと言う奴もいたが、僕はアンヌを見た瞬間、とりこになった。

「なに見てんだよ」
「……いや、かっこいいなって思って」
「あたしがかっこいい? キミ、いい趣味してるね」

 高校時代には勉強しなかったので、私大に推薦さえしてもらえなかった。親がどうしても受験しろと言うので大学入試は受けたものの、最悪の成績なのだから合格するはずもない。僕としては大学になんか行きたくもなかったのでかまわなかったのだが、親がうるさい。

 浪人するのか? 浪人はいや? 大学に行く気がないんだったら就職しろ。それとも、今からでも合格できそうな専門学校にするか。

 やいやいせっつかれて、働くよりはましかと思って専門学校にした。学びたいことなどは特にはなかったので、アニメにした。アニメなんか仕事にもならないだろ、と親は渋っていたのだが、他の専門学校には行きたくないと言ったら許してくれた。

 AMMアカデミーという名の、音楽やアニメやマスコミ関係総合専門学校、CG制作学科に入学した。アニメは好きだが、周りにいるおたくたちほどに情熱は持てない。そもそも勉強嫌いなので学校はつまらない。どうでもいいようなアニメ関係の知識が豊富すぎる同級生たちにもついていけなくて、早くも落ちこぼれかけていた。

 そんな五月に出会ったのが、イラスト学科の女の子。アンヌは僕に言ってくれた。

「笙っていうの? その字、笙って邦楽の笛だよね」
「そう……みたい。よく知ってますね」
「あたしも音楽やってるから。楽器って好きなんだよね。笙は一年生? あたしは二年なんだけど、大学を中退したりなんだかんだしてるから、二十五なんだ。キミよりもだいぶ年上だね」
「あ、そうなんですか」

 七つも年上なのだから彼女が大人っぽいのは当たり前だ。お茶でもしようか、と誘われて、授業はさぼって学校近くのカフェに入った。

「高校のときからロックバンドやってて、卒業したらプロになるつもりだったんだよ。なのにさ、仲間の男たち、そいつらはたいていが大学生だったんだけど、オファーも来てたのに、ロックじゃ食っていけないって言いやがってさ、解散しちまったんだ」
「そうなんですか」

「しようがないから新しくバンドを組んだよ。あたしはギターもヴォーカルもやれるし、高校生のときにスカウトされたほど実力もあって、それに、美人だろ」
「……はい」

 不気味だと言う奴がいても、僕から見てもアンヌは美人だった。

「だからさ、簡単に新しいバンドでデビューできると思ってた。実力のあるインディズバンドに誘われて加入して、うまく行くはずだったんだけど、そのうちのひとりと寝ちまったのが悪かったな。しかも妊娠しちゃってさ、そのせいもあって、要するにメンバーたちがあたしを取り合ってぎくしゃくしたってのもあって、そのバンドも解散しちまったんだよ」
「へぇぇ」

 波乱万丈の人生というのか、かっこいい。憧れてしまいそうだった。

「子どもは産まなかったんだけど、そいつらがみんなあたしが悪いみたいに言うから頭来て、バンドは脱退したよ。それからもいくつかバンドに出たり入ったりして、大学にも入ったり中退したりしてる間に二十五になっちゃった。まあまだ大丈夫だろうけど、保険ってのかね。あたしは絵にも才能あるから、そっちの勉強もしてるんだよ」
「すごいですね」

 へへっ、すごいかな、とアンヌは笑う。笑うと鼻の頭にしわが寄ってキュートだ。

「笙はどうなの?」
「どうって、僕は普通ですよ。大学受験は駄目だったから、専門学校にしたんです」
「CGのほうって言ってたよね。好きなの?」
「別に……」
「あんたはなにが好きなの?」
「えーっと……」

 つるっと口から飛び出したのは、アンヌさん、だった。

「あたしとは今日、会ったばかりじゃん」
「ひと目惚れっていうじゃないですか」
「まあ、ひと目惚れされるって慣れてるけどね。あたしとつきあいたい?」
「つきあってもらえるんでしたら……」
「今は彼氏もいないし、いいよ」

 目の前でハレーションが起きているかのようだ。女の子を好きだと思ったことはあるが、告白なんかしたことはない。むこうからされたこともないから、彼女いない歴十八年。女の子なんてメンドクサイから、彼女はいなくてもかまわないかなと思っていたのだが。

 好きになるとこんな僕でも積極的になれるものなのだ。男友達もいないから、学校に行くのはかったるくてしようがなかったのだが、アンヌと会えるようになって通い甲斐もできた。

「大沢って新垣アンヌとつきあってるんだって?」
「えーっと、そんな噂が出てるの?」
「アンヌは有名人だからな」

 元気になってきたせいか、クラスメイトの男子に話しかけられるようにもなった。彼の名前は田村。CG学科では優等生だ。廊下を歩いていた僕の隣に並んだ背の高い田村と、歩きながら話した。

「おまえとアンヌは全然似合わないけどなぁ」
「僕もそう思わなくもないんだけど、彼女からしたら僕みたいのは新鮮らしいんだ」
「アンヌの噂、知ってるか? 彼女は二十五だか六だかで、この学校に来る前にもいろいろあって、離婚してるとか中退してるとか中絶してるとか……」
「離婚はしてないけど、他は知ってるよ。彼女が言ってたから」
「中絶もほんとか?」

 本当のことなんだから噂になってもかまわない、とアンヌはさばさば言っていた。それでも僕の口から肯定するべきではない。僕は黙っていた。

「おまえって変わってるな。そういう意味ではアンヌとは似合ってるのかもしれない」
「似合ってるって言ってもらえたら嬉しいよ」

 変な奴、と呟いて、田村は離れていってしまった。
 世間一般から見ればアンヌは変わった女性なのだろう。女の子の同級生からも、中絶してるってまちがいない女とつきあうの? 大沢くんって変な奴、と言われた。アンヌはアンヌなのだから、彼女がなにをしていようとも好きな気持ちは揺らがない。僕も強くなったのだと思う。

「笙、喜べ。デビューが決まったよ」
「ほんと? おめでとう」

 ふたりして喜び合ったのは、来春には僕が卒業するという秋。アンヌは一年前に卒業してバンド活動に精を出していた。

「もひとつ、これはおまえが嬉しいのかどうかわかんないんだけど、妊娠したみたいだ」
「へっ?!」
「あたし、妊娠しやすいんだよね。責任取れよ。ってのか、あたしが責任取るよ。結婚してやるよ」
「えええ? そんな……」

 だって、僕はやっと来年の春に卒業はできるけど、あいかわらずCGになんか興味が持てなくてまともに勉強していない。就職のあてもない。そんな僕が結婚なんて滅相もない。言いたくて言えなくてただ彼女を見つめていると、アンヌが言った。

「あたし、三度目の妊娠なんだよ。別に赤ん坊なんかほしくはないけど、また中絶したら二度と子どもが産めなくなっちゃうかもしれない。だから産みたいんだよ」
「そ、そういうものかもしれませんね」
「男にだってわかるだろ。だからさ、笙、おまえだったら専業主夫になれるだろ。この子を育ててよ」
「僕が?」
「いいだろ」
「僕に……できるかな」

 世間のぐうたら主婦だってやってるんだから、できないはずがない、とアンヌは言う。彼女の親は田舎にいて、成人なのだから報告も許可も必要ないとも言う。アンヌは大学を中退してからは収入もあったので、専門学校の学費も自ら出しているのだそうで、親には世話にもなっていないのだから好きにするのだそうだ。

「いいね、結婚するんだよ」
「はい」
「あたしはいいけど、おまえの親にはちゃんと言わなくちゃな。頭が痛いよ」
「頭、痛いですか?」
「世間一般の常識から考えたら……うん、その日だけは……」

 その日だけは、どうするのかと思っていたら、僕の両親に挨拶に来る日には、アンヌは黒い髪になっていた。眉もきちんと描いて清純そうなワンピースを着ている。普段は過激なメイクをしているのをナチュラルにしたら、普通の美人に変身していた。

「染めたんですか」
「かつらだよ」
「なんだ、そっか。僕はアンヌさんのプラチナブロンドが好きなんだから、黒髪に戻したりされたらがっかりですよ。よかった」
「髪の毛なんかどうでもいいから、あたしがちゃんと言うから、笙は黙ってろよ」
「はい」

 頼りになるなぁ、アンヌさんは。
 女性とつきあっているというのは母は知っていて、笙もけっこうやるもんだね、と笑っていた。が、相手がどんな女性なのかは知らない。紹介はしていなかったのだから、父も母もアンヌとは初対面だ。

 かしこまってソファにすわったアンヌが、実はこれこれこうで……と真面目に僕の両親に話す。父は目を見開いて固まってしまい、ややあって母が静かに言った。

「つまり、アンヌさんは妊娠なさってるのね」
「そうです」
「アンヌさんはロックバンドのヴォーカルとしてデビューが決まってるんですね。それでも子どもは産むのね」
「はい」
「そんなんで育てられるんですか」
「家事育児は主に笙さんがやって下さるそうですから」

 それってつまり……と言いかけた父を遮って、母が続けた。

「笙は就職も決まっていないんですけど、アンヌさんの収入で生活はできるんですね」
「できます。最初は正直言ってそれほど裕福でもないでしょうけど、私たちが売れたら笙さんにも子どもにも、なに不自由ない生活をさせてあげる自信はあります。絶対に私たちのバンドは売れますから」
「ふむ」

 母とアンヌが見つめ合い、父はおろおろしている。アンヌさん、かっこいい、お母さんも毅然としていてかっこいいな、と僕はふたりの女性に見とれていた。

「わかりました。笙を幸せにしてやって下さい」
「母さん……」
「お父さんがなにか言いたい気持ちはわかるわよ。だけど、時代は変わったの。これで男女が逆だったとしたら、笙が女の子だとしておなかに子どもがいて、アンヌさんが男でこう言ってくれたんだとしたら、笙がまだ二十歳にもなっていないのを抜きにしたら、おまかせするしかないってお父さんだって思うでしょ」
「うーーーーむ」

 父は腕組みをして唸り、母はアンヌに頭を下げ、アンヌもしおらしげに頭を下げ返していた。
 結婚式はなしで、僕が専門学校を卒業した時点で入籍した。
 
 あれから約一年、アンヌはけっこう貯金を持っていたし、僕の両親も援助してくれたので、出産は無事に終わった。生まれた子どもは男の子で、僕の名前にちなんで胡弓という和楽器の名前をつけた。アンヌの産休が明けたころに、ロックバンド「桃源郷」はデビューした。

 それまでだってアンヌは超多忙だったから、胡弓の育児は僕が主に担当していた。主夫の仕事は大変だったけれど、僕には向いていなくもない。え? 専業主夫? と怪訝な目で見られるのも、昔から変な奴だと言われてきた僕は慣れている。

 とはいえ、アンヌの産休中には僕は専業主夫として前面に出ることは少なかった。アンヌが仕事に復帰し、ロックバンドのヴォーカリストという不規則な生活になったのだから、主夫として以上に父として表に出ていかなくてはならない。がんばれよ、とアンヌに励まされて、今日は胡弓の公園デビューだ。

 ベビーカーを押して公園に行くと、お母さんやおばあちゃんが子どもを連れて遊びにきている。おじいさんだったらいるが、お父さんは皆無だ。胡弓は砂場やすべり台で遊ばせるほどには大きくないので、ベンチにすわって日光浴をさせていた。

「お兄さんなの? 弟さんのお守り? えらいわね」
「いえ、父親です」
「あらま、ものすごく若いお父さんだこと」
「若いですけどね」

 話しかけてきたのは知らないおばあさん。僕はやっと二十歳なのだから、この公園にいる大人たちの平均年齢を大幅にダウンさせているのはまちがいない。

「お母さんもお若いんでしょうね」
「僕のお母さんはもう五十代ですけど」
「あなたのお母さんじゃなくて、坊やのお母さんよ。それはいいんだけど、今日は坊やのお母さんはお仕事? お父さんがお休みで子守りをしてるのかな。えらいわね」
「いえ、僕は専業主夫ですから」

 間が空いて、おばあさんがまじまじ僕を見る。お名前は? と尋ねられて僕は答えた。

「新垣笙です。子どもは胡弓です」
「ショウさんとコキュウくん? 今どきだわね。お父さんのお名前は聞いてないんだけど……まあ、いいけどね。それで、お父さんが主夫? それも今どきだわね。笙さんはまったく働いてないの?」
「専業ですから」
「はああ、時代だわねぇ」

 なにもそんなに感心しなくても、とは思うが、おばあさんだったらそう思うのかもしれない。けれど、今どきだと言うのだったら、今どき、他にも専業主夫はいるだろう。僕もパパ友がほしい。ママ友ってのもいてもいいけど、専業主夫同士の友達がほしかった。

 へぇぇ、ねぇぇ、時代よねぇ、とおばあさんがしきりに感心して、自分の連れているちっちゃな女の子にも話しかけている。女の子をだっこしてこそこそ言っているのは僕の悪口なのかもしれないが、アンヌが認めてくれているのだから、他人にとやかく言われる筋合いはないのである。

「ね、胡弓、パパは強くなったよね。もっと強くならなくちゃ」

 頼もしくてかっこよくて稼ぎのいいママと、優しくて芯の強い専業主夫のパパ、それはそれで子どもにとっては理想じゃないのか? あとはママがスターになってくれたら、僕には言うことなしなんだけど。


つづく

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