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ちょっと一部を

6・エピローグ

「ねえねえ、高校のころのラヴストーリィが聞きたいな。順番に話しましょうよ。はーい、まずはリーダーからね」
 幸生が口火を切り、みんなして真次郎を見つめる。高校のころのラヴストーリィといえば、真次郎にはあれしかない。あれしかないので思い出すままに語り終えてから言った。
「とな、こんなんだぞ。こら、俺にばっかり話させて、おまえらは話さないのか。順番じゃなかったのかよ。章、寝るな」
「……うるせえんだよ、ド下手」
「なんだと、この野郎」
「寝言だよ。本橋、抑えて。章はロックバンドの夢でも見てるんだ。ああ、俺も眠くなってきた」
「乾、おまえも寝るな。次は幸生が話せ」
「リーダーの素敵な可愛い恋物語を堪能させていただきました。僕も寝て、幼い恋の想い出に浸ろうっと。おやすみなさーい」
 わざとらしく布団にころがって、隆也も幸生も寝息を立てはじめる。章はとっくに寝ている。三人に布団をかけてやっている繁之に真次郎が視線をやると、繁之は咳払いをした。
「俺にはなーんにもありませんよ」
「おまえだって……いいよ。俺たちも寝るか」
「寝ましょう」
 石坂しのぶが俺の告白を拒否したおかげで、俺は受験勉強に専念できた。おかげであの大学に合格して、おまえたちと会えた。だからこそプロにもなれた。人生七転び八起き、人間万事塞翁が馬。そうだよな、と真次郎は思う。
  家庭の事情があって、野島は大学には行かなかったらしいが、彼のその後の人生は知らない。しのぶにしても、はるかに遠い想い出のひとつとなった。野島もしのぶも真次郎よりはひとつ年下だったのだから、真次郎が高校を卒業してからは会う機会も、近況を知る機会も途絶えてしまったのだ。
 空手馬鹿の兄たちに反旗を翻したいのもあって、スポーツには背を向けて、歌の道を選んだ。そうしたのもこうなるためか、とも思う。
 寝たふりをしながら、隆也もまた思い出を噛み締めていた。
 まゆりと別れて数日後、たったひとりで旅立った朝。出征兵士でもあるまいし、見送りなんてないのが当然だろ、と強いて考えてはいたけれど、隆也はまゆりの姿を空港で探していた。だが、むろん、彼女はどこにもいなかった。
 東京に到着した夜には、生まれてはじめてのひとり暮らしのちっぽけなアパートで、まゆりに手紙を書いて破り捨てた。まゆりが教えた煙草を吸って、石油ストーブでするめを焼いて、コップ酒を飲んで酔って寝た。
 もしもまゆりと別れたくなくて、東京に行くのを断念していたとしたら、俺は今はここにいなかった、と隆也は思う。
 もしかしたら、と今になって繁之は考える。俺が東京の大学に行って、東京の男になろうとしたのは、彼女の前に出ても恥ずかしくない自分がほしかったからなのだろうか。
 伊勢神宮で出会った、名も知らぬ女の子。実際にこの世ならぬものだったのかもしれない彼女とは、それから一度も会ってはいない。誰にもそんな話をしてもいない。幸生だったらきっと、なんでそんなチャンスを逃すのっ、と俺を責めるだろう。ヒデだったら、この世ならぬ女の子が赤いコートを着て、紙コップやポットを持ってんのかよ、安物の弁当食うのかよ、とまくし立てるだろう。
 素敵な恋の記憶だね、と乾さんは言うかもしれない。恋なんかじゃありませんよ、と俺は赤くなるだろう。本橋さんだったらこうだろうか。
「シゲ、それはきっと夢だ。白昼夢ってやつだ。目を覚ませ」
「昔の話なんだから、目は覚めてますよね。シゲさんらしいなぁ」
 誰にも話してもいないのに、そう言うかもしれない章に、空想の中でうるさい、と言い返しながら、繁之は、となりの布団にいる幸生を見た。俺はあの子と出会ったからこそ、おまえとも出会ったのか。他の三人とも出会えたのか。
 なに考えてんの、シゲさん? と言おうとして言葉を切った幸生の頭にも、「あのころ」が蘇ってきていた。高校三年生の正月に、幸生は横須賀の神社で手を合わせて祈っていたのだった。
「東京の大学を受験します。俺の学力では少々レベルの高い学校だから、合格ラインぎりぎりだって先生は言うんですよ。大学の学部なんてややこしくてよくわかんないから、無難なところで経済学部を受験することにしました。受かったらひとり暮らししてもいいって、両親も約束してくれてます。神さま、どうかお願い。背も伸びたいけど、現役で大学に入学させて下さい」
 大学を卒業して就職して、あっさりと俺にバイバイして札幌に行ってしまった麗子さんにめぐり会って、あなたは俺をなんだと思ってたの? と訊いてみたい。できるものだったら札幌の大学に行きたい。だけど、いっときの遊びとして年下の高校生とつきあっていたにすぎないんだったら、そんな麗子さんには会いたくもない。麗子さんへの想いは振り切るから、大学生になったら可愛い彼女ができますように。
 麗子さんに会いたくて札幌の大学を選んでいたとしたら、俺はみんなと会えなかったんだよね、と幸生は思う。ある意味、麗子さんのおかげだと言うか、おかげでもないのかな、と首をひねっていたら、章の寝息が聞こえてきた。
「章は寝ちゃったから歌えないだろうけど、歌いましょうよ、先輩たち。今はたぶん、みーんなおんなじような年頃だったころを思い出してるんでしょ? 十六歳? 十七歳? 高校のころってはるかに遠い昔のようでいて、そんなに過去でもないんだよね。ね、これは?」
 英語は苦手なんだけど、たった今のシチュエィションにぴったりの歌。これで決まりだ。幸生は歌い出した。

「I learned the truth at seventeen
 That love was meant for beauty queens
 And high school girls with clear skinned smiles
 Who married young and then retired

 The valentines I never knew
 The Friday night charades of youth
 Were spent on one more beautiful
 At seventeen I learned the truth

 And those of us with ravaged faces
 Lacking in the social graces
 Desperately remained at home
 Inventing lovers on the phone
 Who called to say come dance with me
 And murmured vague obscenities
 It isn't all it seems
 At seventeen」

 「十七歳のころ、か」と隆也が曲名を口にし、そして言った。
「その歌って女性の心を描いてて、歌詞を訳すと暗いんだけど、まあ、十六や十七って明るい追憶ばかりじゃないもんな。十六歳でも十七歳でも、男でも女でも似たようなものかもしれない」
「十六歳を思い出すんだったら、一部分替え歌にすればいいじゃん?」
「seventeenをsixteenにすればいいんだな」
「そうですよ。でも、sixのiをeに替えないようにね、リーダー」
「そんな変な発想をするのはおまえだけだよ」
 呆れ声で真次郎が言い、繁之はため息をつき、隆也は笑みを含んだ声で言った。
「……俺は十六だったな。sixteenにしよう」
「俺も十六ですよ。シゲさんは?」
「俺にはなんにもないって言っただろ。しかし、うん、十六だ」
「なんにもなくないみたいじゃん。追求はしませんけどね。じゃあ、「十六歳のころ」に替えて歌いましょう。章も寝言で歌えよ」
 ただひとり、寝てしまっている章はなにを考えているのか、夢の中で十六歳の自分自身とたわむれてでもいるのか。反応はない。
 仕事先の宿での一夜、布団に横たわって闇の中で、四人で歌っている。互いに互いの心が見える道理もないけれど、五人が出会う前、少年だったころの追憶に浸って「十六歳のころ」を歌っている。ひねくれ者の章ひとりはちょっとちがうかもしれないけど、と幸生は思う。
 きっとみんな同じだね。そうやって東京の大学で五人が出会い、フォレストシンガーズのメンバーとなって歩きはじめた。今でもこうして歩いていて、ひとときの小休止の眠りの時間にまで歌っている。英語の歌の訳詞なんてどうでもいいじゃん。俺にはさっぱり意味不明なんだから。
 睡魔が彼らを眠りの世界へといざなうまで、四人はそれぞれの追憶と、歌とともにすごしていた。とうに眠っている章もまた、かすかに感じていた。ロックではなくても……俺はあのころに望んでいた通りに、歌って生きている。だからたぶん、今はハッピィなんだと。たぶん、がつくにしても、俺はハッピィなのだと。たぶんみんなも……たぶん……歌があれば。

END

Thm1882_0

こんな感じです。

タイトルは「At sixteen」

最初のほうはこちらでどうぞ。

http://quianred.blog99.fc2.com/?all

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